ものづくりは生活と隣り合わせ、それが私のリアル【陶芸家 松本かおる】

PLART編集部 2018.2.15
TOPICS

2月15日号

 

引っ越したら、とたんにごはんが美味しくなくなった。

どうしてだろう?買っている食材も、ごはんのつくり方も、特に変わっていないのに。しばらくして、ふと気づいた。「あり合わせの食器で食べているからかもしれない」と。まだ食器が揃っていなかったから、サイズもバラバラのプラスチックの容器で食べていたのだ。

そうして私は、自分の気に入った食器を少しずつ集めはじめ、料理に合ったうつわで食べるようになった。とたんにごはんは、美味しくなった。私が食器やうつわの魅力に気づいたのは、それが最初だ。

同じ食事を食べるにも、うつわが違う事で暮らしが豊かに感じる

そんな暮らしもうつわも、無理なく自然体に自ら生み出す陶芸家がいる。

備前の土を使い陶芸を制作している、松本かおるさんだ。

土の色合いや風味をそのまま生かしたお皿やグラス、一輪挿し。その素朴な風合いは一見、現代の都市部の食生活とは違う雰囲気を感じるかもしれない。でもいざ手に取ってみると、その薄さ、軽さ、そして手触りの良さにはっと気づかされる。実際に使ってみると、驚くほどどんな食器とも、そして和洋問わずどんな料理とも、合う。

そんなシンプルで自然体のうつわは、そのまま松本さんがまとう雰囲気でもある。まるで作品の奥に、つくり手である松本さんが、見え隠れするような。

陶芸の世界に入る前は、東京で仕事をしていたという松本さん。そこから一転してうつわをつくりはじめ、それを仕事にしてしまうくらい、陶芸に惹かれたのはなぜだろう。

話を聞いていくなかで、松本さんの陶芸のなかには、「土そのものの表情が楽しめる」備前の土のおもしろさと、彼女ならではの「気がついたら動いている」という行動力があることだった。

青山で開催中の個展「松本かおる うつわ展」(2018/3/18まで)

陶芸家としては遅いスタートを切る

ものづくりに携わっている人に話を聞くと、小さい頃から手を動かすのが好きだったという人が多いが、松本さんも幼少期から絵を描くことが好きだったという。だが、学生時代はものづくりや表現の世界に進むことはなく、陶芸に出会うまでは、都内のレストラン会社でPRとして働いていた。

「私の陶芸家としてのスタートは割と遅くって、30歳を過ぎてから陶芸家になろうと決めたんです。食にはもともと興味があり、野菜を宅配で取り寄せるなど、気を使っていたんですね。食とうつわって密接な関係があるから、そこから陶芸に興味を持ちました

そうして会社員をしながら陶芸教室に通い始めたのが、松本さんが初めて陶芸づくりに足を踏み入れたときだった。

「自分で陶芸をつくってみようと思ったのは、父が趣味で陶芸を始めたことがきっかけでした。量産品とは明らかに違う、つくり手の、父のぬくもりを感じたんです。また、父が楽しんでつくっているんだなというのが伝わってきた。愛と言うと大げさですが、うつわに気持ちが込められていて、心が動かされました教室に通い始めたころは、当時の仕事をずっと続けることにしっくりしておらず、ちょうど今後の事を考えてた時期でもありました。なので、陶芸をやり始めて『これだ!』と直感し、やっていこうと決めたんです」

 

『すっぴんのうつわ』と呼ばれる備前の土に魅了された

松本さんは、陶芸家になると決めた数ヶ月後にはもう仕事を辞め、岡山の備前陶芸センターという学校に入学していた。仕事があったのに、そして陶芸家としてのスタートとしては遅いという自覚があるのに、その行動力・決断力には目を見張るものがある。

「私って割と深く考えずに行動するというか、インスピレーションを大切にしています。なので石橋を叩かずに落ちてから気づくタイプですね(笑)だから、やると決めた時の行動力はすごい方だと思います。仕事を辞めて岡山に行くことは、みんなに『大変だよ』と言われました。でも実際は、山のなかで蝶々が飛んでいる、そんな都会とは正反対の環境で、好きなことだけできて…ここは天国かって思いました(笑)なので、収入がなくなっても楽しめたんだと思います」

アルバイトもしつつ、学校には1年通い、その間はひたすらつくっていた。特に、陶芸の素となる土づくりが好きだったので、山から土を持ってきてはひたすら砕いて、粘土をつくっていたそうだ。

「私が学んだ備前焼は、他の陶芸とちがい釉薬を塗りません。それほど土に表情があって強いということ。なので、土そのものの色合いや質感がダイレクトに出ます。『すっぴんのうつわと呼ばれているんですね。なので、土づくりにとてもこだわります。修行時代は一日土を砕くこともあるんです

卒業後1年間は、陶芸家・星正幸さんに師事した。松本さんの、シンプルで使うシーンや人を選ばないうつわは、ここで基礎が築かれた。

「もともと、星さんの明るく、今の食卓に馴染むモダンな作品が好きだったので、卒業して学ばせてくださいと直接お願いしにいきました。備前焼は重厚感があるのが特徴で、割と男性的なんですね。それは、岡山の広い家にはぴったりだと思うんですが、私はずっと東京で育ってきたので、都会の狭い家にも収まり、かつ女性が扱いやすいものが欲しいと思っていました。

手触りが良く、軽くて持ちやすいものがいい。そういった、自分が使いたいものをつくるという思いを抱いて、うつわをつくり始めました」

都内に戻って陶芸教室で働く合間にアルバイトをし、自分の焼きしめ陶芸教室も開く。徐々に陶芸一本の生活へとかわってゆく。そして少しずつ作品発表の場を広げていった。現在は長野に住みながら、個展を中心に作品をつくり販売している。

 

作品は、普段の生活から生まれるもの

陶芸などものづくりに携わる人は、職人気質でひたすら仕事に打ち込み、ストイックに制作するイメージがある。でも松本さんは、陶芸のベースに生活があり、日々の暮らしを楽しみながら、うつわをつくっている

「自然に囲まれたところで、野菜をつくったり、山菜を取りに行ったり、湧き水を汲みに行ったりして、田舎暮らしを楽しんでいます。東京にいたときよりすごく季節を感じるので、食卓にもなるべく季節のものを取り入れるようにしています。こういった自然から得た刺激は、作品にも自然と現れていると思います」

キッチンの窓からの景色

そもそも、作品のインスピレーション自体が、松本さん自身の生活から生まれているのだ。

普段、料理をしたり食卓にうつわを置いたりしているなかで、『こういう食器がほしいな』とか、『このうつわ、もっとこうだったらいいな』といった思いが出てくるんですね。つくるのも楽しいけれど、さらにそれを使う楽しみもあるので、陶芸ってなんていい仕事なんだろうって思っています」

 

伝統工芸だって、意識したことはない

生活と地続きになったところに、うつわづくりがあるからだろうか、松本さんは、陶芸に対して「伝統工芸だから」「アートでもあるから」と意気込むことはなく、とても自然体で向き合っている。

「自分の作品がアートだと意識したことはないですね。うつわはやっぱり生活のなかで、いつも使うものだから」

「使うにつれ育つ器。使う度にどんどんすべすべになり、思わず頬ずりしたくなるほど」と松本さん

「アート作品も、ただ観るだけではなく生活に取り入れて、手に取ってもらえるようなものになるといいですよね。私も一うつわファンとして、好きな作家さんの作品を買うのですが、そうすると生活が潤う。アートも、もっと生活の一部になればいいと思います」

同じように松本さんは、自分のつくっているものが伝統工芸だと意識することもないという。

「備前の土は自由です。すごく作家の個性が出るんですよ。だから私も自由に、備前ではないところで、自分にできるものを、つくりたいものをつくっています。また、こうして自由に『型にはまらない陶芸』をつくることで、陶芸や備前焼きを知ってもらう窓口が広がればと思います。

今度、輪島(石川県)へ引っ越すので、輪島の漆とコラボしたうつわを作れないかと思索中です」

松本さんのうつわは現在、東京・青山での個展にて、実際に手に取ることができる。セレクトショップ・ENCOUNTER Madu Aoyamaにて、3/3(土)~3/18(日)で開催中だ。

「今回の個展では、男性性と女性性をテーマにしています。備前の土がもともと持っている丈夫でどっしりした男性的な部分と、手にとったときに意外と軽かったり、吸いつくような触感だったりという女性的な部分の両方を、兼ね備えたうつわをつくりました。

ビールや日本酒が滑らかな口当たりになったり、通気性があるので水が腐りにくくお花が長持ちしたり、塩壺の塩が固まらなかったりと、実用的な部分もたくさんあります。そういったうつわの良さを実際に手に取って、使ってみて知ってもらいたいな」

松本さんのうつわが、男女問わず幅広く愛されているのは、それがきっと、彼女自身の生活から生まれたものだからだろう。誰かの生活から生まれたものが、また、誰かの生活へと入ってゆく。

日常から生まれたものは、他の人の日常にも、すっと馴染んでゆく。

暮らしから生まれた伝統工芸もアートも、そうしたかたちで、私たちの生活の一部になっていくのかもしれない。

 

kakite : Saki Sugahara/photo by Yuba Hayashi/Edit by Naomi Kakiuchi


 

松本かおる/Kaoru Matsumoto

東京都出身。レストラン運営会社のプレスを経て、陶芸家になるべく単身岡山へ。備前陶芸センターで学んだのち、備前焼作家、星正幸氏に師事し独立。2009年から都内で焼きしめ陶芸教室をはじめる。2012年から長野在住、備前粘土を用いた焼きしめの器を制作する。


【取材場所】

店舗名ENCOUNTER Madu Aoyama

住所 東京都港区南青山5-8-1 セーヌアキラ1F

電話番号 03-3498-2971

OPEN 11:00

CLOSE 20:00

定休日無し(年末年始除く)

URL http://www.madu.jp/brands/encounter_madu/

 

取材フォトギャラリー

 



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