種子島で、ルーツと未来に出会う。 【種子島宇宙芸術祭 総合ディレクター 森脇裕之】

PLART編集部 2017.8.15
TOPICS

8月15日号

 

芸術は、ジャンルじゃない。生きる姿勢なんです。だから僕らは、未だ見たことのないものを科学技術やアートの力で探求していくんです

そう私たちに語ってくれたのは、宇宙芸術家として活動をする森脇裕之(もりわき ひろゆき)さん。

100日間にわたって開催される「種子島宇宙芸術祭」の総合ディレクターだ。

東京からはおよそ1,000km。飛行機で乗り継ぐこと5時間半。

決して便利とは言えない有人の離島、種子島で開催される芸術祭に今年、人々の視線が集まっている。

─今、なぜ種子島で芸術祭なのか。そして、宇宙と芸術との繋がりとはいったい?

 

「宇宙芸術家」森脇裕之の誕生。

森脇さんは25年以上前から光を使ったアート、”ライトアーティスト”として活動をしていた。

その後は現在に至るまで「宇宙芸術家」と名乗り、活動領域を広げている。

ライトアーティストだった森脇さんの「宇宙芸術」との出逢い。

そのきっかけは、意外なものだった。

「かれこれ20数年前のことですが、紅白歌合戦に出場する歌手の小林幸子さんの衣装を光らせることになったんです。光をたくさん見せるために、今ではおなじみの“あの”巨大な衣装をつくって光らせました

大晦日の代名詞のような存在ともなっていた、小林幸子さんの豪華な衣装。実は、あれは森脇さんの制作だった。

「その頃は、ちょうど『メディアアート』という分野が立ち上がったばかりのころで、“演歌+メディア”を組み合わせて新しいジャンルの芸術を開拓しようとしていました。その後も、技術が発展してゆき、IT技術を使ったアートやICC(NTTインターコミュニケーション・センター)の立ち上げに精力的に参画していました。メディア芸術祭が一般化し始めたのも、この頃でしたね」

懐かしむ様に語る森脇さん。

発展を遂げた科学技術がアートに寄り添い、そして共に歩み始めるまでを見てきた彼が知る、メディアアートの変遷だ。

そして2001年に森脇さんが「宇宙芸術家」と名乗るきっかけになる転機が訪れた。

「水戸芸術館の方から10周年事業で『宇宙の旅展』を開催するから、ということで出品の依頼をいただいたんです。『なんで僕?』と思っていたら、前に同美術館で展示を行った作品が、たまたま星空に見えたからという理由でした(笑)」

ここで、宇宙と芸術を結ぶきっかけが生まれたのだ。

「当時もいまも、宇宙にフォーカスを当て続けるアーティストは、実はそれほど多くいません。その様なアーティストを集めるのは難しいことですが、一方でアーティストの多くは宇宙をテーマに『考える』ことはできるはずです。そうすることで、これまでのアーティストとしての創作視野が大きく広がる気がしました」

宇宙をテーマにすることで、メディアアートの世界がもっと先に進むことができると森脇さんは確信し、その後は「宇宙芸術家」と事ある毎に名乗ってきた。

 

「宇宙は誰のもの?」6年越しのプロジェクトが始まる。

話を種子島に戻す。

2017年8月5日 から11月12日の、全100日間。

種子島で初めての芸術祭、「種子島宇宙芸術祭」が開催される。

「宇宙芸術家」への転身後、宇宙をテーマに活動を続ける森脇さんは、この「種子島芸術祭」の開催にいたるまでの経緯を話してくれた。

種子島の天然水。同じ場所から採取した水を宇宙で宇宙飛行士が飲んでいる・・・と考えるとロマンがある。

「僕が宇宙芸術家と名乗り始めたのと同じ時期、JAXAも宇宙に関してある種、社会科学的な視点を持ち宇宙芸術実験の取り組みを始めていました。『月はどこの国の領土なのか?』とか『人類はなぜ宇宙を目指すのか?』など、政治学的、哲学的な視点で考える研究がスタートしていました。そこでわれわれは、宇宙芸術の研究会を主宰し、アーティストやキュレーターが中心なってシンポジウムなどを行ってきました。あるとき種子島に勤務していたJAXAの職員から『種子島で芸術祭をやってみないか?』というアイデアが出て、この芸術祭が実現する運びになったのです」

その場にいた全員が、「種子島で宇宙芸術祭…これしかない!」と大興奮。

小さなきっかけは、その後、森脇さんの壮大な長期プロジェクトとして芽吹くことになった。

「プロジェクトの始めは、ほとんど手弁当でした。島の人に理解してもらうまでが大変でしたね…。ところが幸い、種子島の人々はお祭りをするのが大好きな性分なので、芸術祭に対しても受け入れる姿勢が整っていたんですよ。ワークショップで島の小学生を巻き込んだり、協力をしてくれる人も徐々に現れ、年々活動が広がっていきました」

2012年からプロジェクトが動き始め、2016年まで5カ年にわたってプレイベントも行われた。

そして今年の2017年、森脇さんの6年越しの活動の結晶として、やっと「宇宙芸術祭」が現実となる瞬間が訪れた。

島で配布されている「うちゅげい通信」

種子島は里山ならぬ、“里島” 祭り好きの住人と芸術祭。

この芸術祭、何よりも種子島そのものの魅力に興味を惹かれる。

森脇さんが語る、種子島の魅力とはいったいどんなものだろうか?

「里山という言葉がありますよね?人の手が入って、温かさがあって自然と共存して生活してゆく…それなら、種子島を表す言葉として“里島”という言葉があってもいいんじゃないかと思うし、そのくらい素敵な場所です。種子島にはご存知の通りその昔南蛮文化が伝来しましたし、長い歴史があるので伝統行事も活発です。一方でサーファーの聖地としても有名で、比較的新しい住民もいます。住民同士の繋がりも強く、地域の運動会にも保護者の参加意識が高く、子どもよりも意気込んでガチで勝負をしている」

森脇さんの高らかに笑う声は種子島への愛情で溢れていた。

レジデンスアーティストが、『種子島には生活がある』と言っていました。都会的な豊かさとは違うかもしれないけれど、地域のつながりはとても深く、伝統行事も多いです。それが当たり前のようにしっかりと生活を営んでいます。これがよき日本のあるべき姿なのかもしれないですね」

「夜になれば真っ暗で星が本当に良く見えます。街灯もなく都会から離れているので、光漏れもありません。でも町の人々はこれをウリにはしようとしないんです。地域資源というのは、ちょっと視点を変えるだけでたくさんありますよね」

宇宙芸術祭のアイドル「みなみちゃん」島のどこかにひょこっといるそうです。

 

「宇宙祭り」を、種子島で開催します。

魅力溢れる島、種子島で開かれる宇宙の芸術祭。

その中身にはどんなものが用意されているのだろう。

「実は、一番大切なのは『祭り』であるところかもしれません。宇宙芸術というと難しい言葉ですが、あくまで種子島で行う宇宙の『祭り』で、芸術の『祭り』、ふたつ合わせて『宇宙芸術祭』なんです。ここでしかできない祭りで、楽しいからおいでよ!という感覚でいます」

芸術祭では、実際に打ち上げられたロケットの先端部を用いた作品や、海岸の洞窟を会場にしたプラネタリウムのイベント、カフェスタイルの天体観測会など、聞いただけでも心浮き立つ様な展示が目白押しだ。

千座の岩屋スーパープラネタリウム/大平貴之

アートと宇宙が種子島で融合する瞬間。

宇宙芸術祭の開催にいたるまでのストーリーそのものが、すでに芸術なのだと森脇さんは語る。

「6年間かけてやっとたどり着いた芸術祭です。参加してもらうアーティストは、ひとりひとりに依頼しました」自身も同じアーティストとしての立場から、「何かやってくれそう」というシンクロ感覚を頼りに参加アーティストも集めた。

JAXAや、協賛企業、島の人々、仲間と一緒にコラボレーションして一緒に未だ見たことないものを見たいんです。この不景気にアートなんて、何をしているんだ』という声も上がる世の中ですが、だからといってこうした未来への活動をやめてしまったら、僕らや日本は縮小していくしかないですよね。アートが実現しようとしているものと、宇宙開発で探求しているものは、ものすごく一致していると思います。見たことのないものを科学技術やアートでそれぞれ探求していて、成果物が異なるだけの話です」

最後に、もう一度森脇さんに伺った。

──種子島宇宙芸術祭の魅力はなんですか?

「種子島は、未来(宇宙)とルーツ(歴史/風土)が時間を越えてクロスする場所です。宇宙に惹かれてやって来て、でも実は種子島の良さを知る。そのためには何よりまずは一度来てほしいです。その中で実は種子島にはいろいろな『資源』があるのだということを知るはず。伝統、景色、作物……明るい島の人々。“ウリがない”と言われがちな島だけれど、観光ガイドには書けない、温かみがたくさんあります」

芸術の可能性は、計り知れない。 アートと宇宙が似ているなんて考えたことがなかった。森脇さんのいう通り、その可能性をまたひとつ発見するきっかけが種子島にはあるのだろうと、確信をした。

「種子島に行ってみようかな……」そんな衝動が私たちの背中を押す。

 

kakite : 鈴木しの/photo by BrightLogg,Inc./EDIT by PLART & BrightLogg,Inc.


森脇裕之/Hiroyuki Moriwaki

ライト・アーティスト╱1964年生まれ/和歌山県出身/筑波大学大学院芸術研究科修了/多摩美術大学情報デザイン学科教授/LEDを用いたインタラクティブな作品「レイヨ=グラフィー」(1990年)、「夢を見る夢を見た…」(1995年,ARTEC’95準グランプリ受賞)「Geo-Sphere」(1996年,ロレアル奨励賞受賞)などの代表作では、電子パーツそのものが重要な作品要素となっている。「記憶の庭」港千尋+森脇裕之(1998年,マルチメディアグランプリ アート賞受賞) などでメディアを用いたインスタレーションを展開する。また「宇宙の旅」展(2001年,水戸芸術館開館10周年記念事業)や「ミッション[宇宙×芸術]〜コスモロジーを超えて〜」展(2014年,東京都現代美術館)などに参加。2017年開催の種子島宇宙芸術祭 総合ディレクター。

一方、ファッション・デザイナーとのコラボレーション(小林幸子電飾衣装)や演劇パフォーマンス(パパ・タラフマラ舞台美術)などの異分野とのコラボレーションも多い。


種子島宇宙芸術祭

会期:2017 年 8 月 5 日 ( 金 ) ~ 11 月 12 日(日) 全 100 日間

場所:種子島全島(西之表市・中種子町・南種子町)

主催:種子島宇宙芸術祭実行委員会

http://space-art-tanegashima.jp/


 



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