【新連載】僕らのアート時代 vol.0 特別編「僕らのアイデンティティ」 DRAWING AND MANUAL 代表 菱川勢一

PLART編集部 2017.10.15
SERIES

10月15日号

「新連載・僕らのアート時代 vol.0  特別編」について

PLART STORY 創刊号の特集「僕らのアート時代」で下記の挨拶文を書きました。

「アートは「人の表現」です。人の表現を受け入れることは人との違いを楽しむこと。

お互いの違いを認め合うこと。そして、それぞれに自分の人生を楽しむこと。きっとここから、新しい時代がはじまります」

人の表現は「今しか」生まれません。

今を生きる私たちがその表現に鎖をしめていて、次の世代に何を残せるのでしょうか。

PLARTは”時代の表現”を集めて、編んで、届けます。

今回、「僕らのアート時代 vol.0 特別編」として、登場頂いた映画監督の菱川勢一さん。

菱川さん初の長編映画作品 「#youth」に登場するのは若い表現者たちです。

この映画に込めた想いがPLART STORYと共通してる点だと思い、お話を聞かせて頂きました。

 

将来への漠然とした不安や社会に対する行き場のない怒り───。

心の中でくすぶり続ける言葉にできない想い───。

2017年9月、渋谷シアター・イメージフォーラムを皮切りに上映を開始した映画「#youth」は、徳島に住む幼なじみ6人が、少しずつ変わってゆく地元の風景に哀愁を感じ、社会について考え始める。理想と現実のはざまで、仲間たちと分かち合う喜び、悲しみ、怒り、そして過去から解放される姿を描き出す青春映画だ。

大衆好みでもあるけれど、サブカルの香りもする───。

「#youth」は今の若者の目には新しく、そして尖って映ると同時に、全ての人を受け入れるエンターテイメント性を持つ。

若者が生き方にただ悩む…ある側面だけを見ればそう映ってしまうかもしれないが、「#youth」という作品はこれまでの青春映画よりも深く心に入り込んでくる。

映画監督・菱川勢一(ひしかわせいいち)さんの描き出す世界に込められた想いとは一体どんなものだろうか。そして、菱川さんがyouth(=若者)に今伝えたいメッセージとは?

さらに今回は「#youth」のメインキャストの一人である俳優・岡崎森馬(おかざきしんま)さんにもお話を伺った。

若者を切り取った映像作家 菱川勢一と等身大の若者、岡崎森馬が今感じていること。

言葉にならない不安を抱えるすべての人へ。

#youthは、あなたの物語です

©#youth_KEYVISUAL

 

「#youth」の舞台裏。伝えたかったこと。

メインキャストの一人、岡崎さんは「#youth」主演のタロウを演じた事をどう感じているのだろうか。

「#youth 」主演・岡崎森馬さん

岡崎さん(以下、敬称略):実は撮影が終わってからも、これで正解だったのかな、という気持ちがあったんです。でも、映画を観た方から「影響を受けて行動を起こした」と聞いて、救われた気持ちになりました。

最初は、演じる役のプロフィールを菱川さんが作ってくれるってことだったんですけど、一向に送られてこなくて…(笑)だから、自分で考えたり台本を見てわかることを吸い上げながら役作りをしました。

菱川さん(以下、敬称略):実は今回、この6人の役者を選んだのは不安定さがあったからなんですよね。等身大の若者として、この不安定さをきちんと表現できるから、ハマったんです。プロフィールも自分で考えてもらった方が不安定さがもっと際立つと思い、作るのをやめました(笑)このあたりは、収録中も6人の中でもだいぶ話し合っていたようですしね。一方で、大人役の人たちはキャリアも実力も十分な人を集め、周りを固めました。

『好きにやらせてくれて、信じてくれてありがとう』って若手役者たちに言われたけど、ただ寛容でいたの。これがテーマだから(笑)自分勝手な若者たちが勝手にやってる、だけどそれを許す大人たちがいるよって伝えたかったんです。

岡崎:それ今、はじめて聞きました(笑)

主演6人のyouthと菱川さん、デカ長役の西村さん ©#youth_MAKINGPHOTO

優先順位がつけづらい現代の日本社会に。

映画のワンシーンに機動隊が出てくることについて、意識や価値観の視野を社会に広げよう、寛容になろう、とyouth世代に言いたかった」と菱川さんは話す。

©#youth_MAKINGPHOTO

「僕らの学生の頃は成田空港紛争などで時々ニュースに出てたんです。只事ではない、という物々しい存在が日常にありました。ですが、今の日本は有事に対して鈍っていると感じてます。例えば、Jアラートの通知は情報過多の中で雑多な身の周りの生活と並列になっていて、優先順位がつけづらい社会になってる。

だけど、その『分からない社会』を肌感で察し苛立ちが積もり、自分と違う意見を叩くのが今の日本社会です。そんな社会に少しだけ寛容であることが必要だと思ってます

“まあいろいろあるさ。寛容になることで幸せになる”

“君は君で、僕は僕。基本的に違うことを理解する” 

今の世の中に投げ込むメッセージが「#youth」にはある。

「人は誰でも居心地のいいところに居たいけど、生きていく上で知らないといけないことがある。法律や社会の決まりが飄々淡々に作られること、表現の自由も含めて、疑問に思うことに関心を持ってもらいたい。

だけど、政治家が政治語で政治のことを話しても伝わらないと思うんです。そういう意味で「#youth」には、伝えたいメッセージはサブカルに。見せ方は大衆として、間を狙って作りました」

 

次世代をつくる若い表現者へ。

菱川さんと岡崎さんそれぞれから、映画を通して今を生きるyouth(=若者)へ伝えたいことを伺った───。

岡崎表現は自由だよ、ということを伝えたいです。監督や演出にはよれども、表現する本人が「これが自分だ」というものを決めて、自分にしかできない表情・表現を貫き通してほしいです。自分もそうやって演技していきたいと「#youth」を通して思いました。

菱川:歯を食いしばりながら作品・表現を晒してほしいです。晒すことがアーティストたる所以なので。いずれ、作品の中でこだわりとか完成度と戦っていくことにはなるけど、今はその歳の自分にしかできない表現があるので、そのときの全力を出すことを大切にして欲しい。それが創作活動の一片でもあります。

他人や世の中からの評価を気にするあまり尻込んでしまうのではなく、表現者は晒すことが最も重要で、そこにこそ存在理由があることを知ってほしいです。

また僕自身にとっての創作は、作品ごとに登山に例えることがあるんです。この山を登るって決めて、必死で頑張って登って頂上だ!と思って見たら実は山脈があって、まだまだ上があるって事がこれまで沢山ありました(笑)

ただこの歳になって思う事は、若い世代の考える自由さと30、40代になっていろんな物に揉まれて経験した後に出てくる自由さは違う束縛や固定概念とか、そういうものがあるんだよ!って理解した時にどう利用してやろうか?に変わる。

他人の価値観や固定概念を認めて、ナショナリズム・社会・価値観を悠々と飛び越えていくこと。それにはやはり視野を広げること、そして確固たる自分のアイデンティティを持つことですね」

周りに臆することなく表現することと自分自身のアイデンティティを貫き通すことに2人の言葉から共通して感じることができた。

 

表現としての「映画」、その先にあるもの。

20年前、仲間たちと会社を設立したばかりの頃、ノートにこれからこの会社でやりたいことを書いたそうだ。そこには「映画」の文字もあった。

「本来、自主制作映画はハイリスクすぎてやらないんです。でも僕らは映像集団として、いかざるを得ない創作意欲が募っていく場所、総合芸術の無視できない領域・・・それが『映画』です。映画だって、アートと同じでもっと自由に表現出来るものだと思っています」

「今日は帰りに駅前で花を買って帰ろう、と同じ感覚で今日は帰りに映画を観て帰ろう、があってほしいんですね。「#youth」が90分の上映時間なのは、もっと気軽に観てもらいたいし、映画を観終わったらそのまま一杯やりながら映画の感想を話し合う。そんな風に時間を提案する気持ちもありました。決して「流行っているから乗り遅れないために映画を観よう」ではなく、お花屋さんの棚にある「なんだか観た事なかったけど、気になって買った花」のような映画を作ったつもりです

そして、次は、映画館をやりたいと言った。

「自分たちで撮った映画を見せる映画館を作りたい。超独立映画館で、館主の気まぐれで映画を流す映画館とか面白いと思ってます(笑)」

菱川さんには、劇場カルチャーの世界が見えている。

 

最後に・・・

今回、記事を執筆している私は現在22歳だ。

まさに“youth”と呼ばれる世代にあたり、周りを見れば将来に悩む友人たちの姿がある。私も同じだ。日々生き方に悩み、葛藤し、言葉にならない不安を抱えている。

ーーそんな生き方、誰が幸せになるの?

ーーもっと真っ当な人生を歩みなさい

ーー所詮、夢は夢でしかないのだから

たくさんの大人の声を聞き、迷いや不安を抱えた。言葉にできない苦しみに、幾度も押し潰されそうになった。

……そんなときに出会った「#youth」はたくさんのことを教えてくれた。

岡崎森馬演じる「タロウ」はこう訴えかける。

そこに俺らの意思はあるんか?…この時代に生きとんぞ!

©#youth_MAKINGPHOTO

youth 6人の言葉、全てが自分だった。

だから今はわかる。不安なんて、抱えなくていい。どうしても拭いきれないなら、それはそれでもいい。

この先も私たちはたくさんの過ちや孤独を背負って、不安になる日がきっと来るだろう。自分で選択したはずなのに、「じつは間違っていたのではないか」と心が締めつけられる日もあるだろう。

でも大丈夫だ。私たちは、間違いを知ることで強くなる。笑顔になれる。そしていつか振り返ってみると、クヨクヨと悩んでいたあの日から随分と遠くまで来ていたことに気がつくはずだ。

「逃げてもいい。失敗してもいい。でも、前に進むことに怯えないで」(映画リーフレットより)

「#youth」が投げかけるメッセージは、私たちを強く、そして穏やかな気持ちへと導いてくれる。

©DRAWING AND MANUAL

 

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ーあとがきー

創刊1周年の次号から連載「僕らのアート時代」が始まります。

自分の声を人に届ける為には自分のアイデンティティを持ち、まず人との違いを知ればいい。そして、否定するのではなく、人と違うことを認め合うこと。

今回、「#youth」そして菱川さんの想いに乗せてもらい記事にさせて頂きました。菱川さん、ありがとうございます。

今を生きる表現者たちがここからの時代の流れを示してくれると願い、若いアーティストにフォーカスを当てます。

連載「僕らのアート時代」をご覧頂けると嬉しいです。

PLART STORY 編集長 柿内奈緒美

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kakite : 鈴木しの&柿内奈緒美/photo by BrightLogg,Inc.(クレジットがない物を除く)EDIT by PLART(柿内奈緒美) 


菱川 勢一/Seiichi Hishikawa

映画監督・写真家

1969年東京生まれ。音楽業界からキャリアをスタートした。1991年渡米、拠点をニューヨークへと移す。渡米と同時に映像業界へ転身し、US制作によるミュージック・ビデオ、TVCM、TV番組から実験映像、映画製作まで監督、撮影、編集、音響エンジニアとしてあらゆるジャンルの映像に関わった。帰国後、演出の道へ進み、映像演出、舞台演出、空間演出、メディア・アート、ファッションブランドのコレクション演出などを手がけた後、1997年デザインスタジオ DRAWING AND MANUALの設立に参画。2009年、武蔵野美術大学基礎デザイン学科教授に就任。2011年カンヌ国際広告賞にて三冠受賞した。同年、初の写真展「存在しない映画、存在した光景」開催。同時に写真集を刊行。2012年カンヌライオンズ審査員を務める。近年では脚本、展覧会ディレクターなども手がけている。2016年ベネツィア・ビエンナーレにて日本館の監修をし審査員特別賞を受賞。2017年 初の長編映画「#youth」を監督。

【作品概要】

幼なじみ6人、タロウ、リンコ、ヨーコ、マナブ、キンタロー、ユイ。少しづつ変わってゆく地元の風景にどこか寂しさを感じ、20歳を越えた今、社会というものを考え始める。”社会人とは何か? 幸せとは何か?”を問い、6人は答えを探してついには暴動へと突き進む。抱いていた夢と立ちはだかる現実のはざまで仲間たちと分かち合う喜び、悲しみ、怒り、そして過去からの解放。四国徳島を舞台に清々しく描かれる青春映画。

原作・脚本・監督 菱川勢一

出演 岡崎森馬 杉本知佳 るうこ 藤井草馬 古矢航之介 北野由依  西村武純 高木公佑 ほか

2017年作品 カラー82分 渋谷イメージフォーラム イオンシネマ徳島ほか全国順次公開予定

公式WEB https://www.youth.exposed

【今後の上映予定】

2017年11月10日(金)19時~ イオンシネマ海老名

2017年11月17日(金)18時~ イオンシネマ名古屋茶屋

2017年11月24日(金)19時~ イオンシネマ名古屋茶屋

2017年12月  8日(金)19時~ イオンシネマ守谷

2017年12月15日(金)19時~ イオンシネマ福岡

2017年12月22日(金)19時~ イオンシネマ福岡

2018年  1月12日(金)19時~ イオンシネマ金沢フォーラス

2018年  1月19日(木)19時~ イオンシネマ金沢フォーラス

大人料金1800円(シルバーや障害者割引、大学生・高校生料金は各劇場のルールに従います。)

・各種サービスデイ(ハッピーマンデー、モーニング、レイトショー)適用

・e席リザーブ(イオンターネット販売)販売あり

■海老名:http://www.aeoncinema.com/theater/access/81009_price.html

■名古屋茶屋:http://www.aeoncinema.com/theater/access/81073_price.html

■守谷:http://www.aeoncinema.com/theater/access/81059_price.html

■福岡:http://www.aeoncinema.com/theater/access/81047_price.html

■金沢フォーラス:http://www.aeoncinema.com/theater/access/81507_price.html

取材フォトギャラリー

 



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