生活を通して建築の魅力を伝えていく【SUPPOSE DESIGN OFFICE/谷尻誠・吉田愛】

PLART編集部 2017.6.15
TOPICS

6月15日号

 

広島と東京、ふたつの都市に拠点を構える建築設計事務所『SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズ デザイン オフィス)』

代表の谷尻誠さんと吉田愛さんは、門戸が閉ざされがちな「建築事務所」という存在と、社会を密接につなげているきっかけを生み出している。

その一つとして、この4月、移転したばかりの事務所の中に「社食堂」をオープンさせた。

忙しい社員たちに体やアイデアの素になる健康的な美味しい食事を摂ってほしいという思いだ。

 

谷尻さん「夫婦が似てくるのは同じモノを食べ、同じ細胞が作られていくから。会社も一緒で食事が同じだと、細胞形成が似てくる。同じ釜の飯は細胞のデザインって言える。オープンから2ケ月経ち、食事中にスタッフ同士がコミュニケーションを多くとる様になって仲良くなった。健康的になって、仕事にもいい影響が出てますよ」

社食堂は、社員以外の一般の人たちを利用できる。そして「食べる」だけでなく、ギャラリーとしての機能も持ち、広島産のレモンや器などが購入する事の出来るグローサリーストアでもある。

これまでにない、誰でも気軽に立ち寄ることの出来る建築事務所だ

「壁が高く入りづらい」と思われているものを社会にオープンな存在にするため、どの様な考えがあるのか伺った。

 

16年前のオープンハウスから始まった「翻訳」活動

谷尻さんたちは、独立した頃から一般の人が家を建てるとき建築家へ設計を依頼する機会を増やしたいと思っていたそうだ。

谷尻さん「建築家には『風景を作る』という意識を持っている人が多い。家を建てるときも、街のリサーチを行い状況を把握し、街に対してどういうあり方をすべきか問題解決を考える。それは、量産された画一的な建築にはないもの。だから、建築家が設計した建物が増えた方が街全体がよくなると思う」

しかし実際の建築事務所は、一般的な世の中に対してあまりにも門戸が閉ざされている。本来は生活のなかにあるべきものなのに、「家を作る人が、家を建てる時にしか建築家に会う事がない」といった事実と高い心の障壁があり身近な切り口で語られることはない。

谷尻さん「蓄積された知恵や経験を守っていくためには、専門的な話や学術的な話はもちろん必要不可欠です。でも一般の人に説明するときには、難しいことを噛み砕いて伝えないと。自分たちなら建築事務所がより社会と密接に関わるために、翻訳する役割を担えるんじゃないかと思ったんです」

16年前、初めて「翻訳」の活動を行った。

友人の家を建てたあとに、家を建てたい意志の有無など問わず、一般の人が自由に出入りできるフランクなオープンハウスをそこで開催した。街中にフライヤーを配ったりTシャツをデザインしたり、まるでイベントのような盛り上がりだったという。

吉田さん「一般的なオープンハウスって営業の側面が強すぎる気がして。家を建てたいと考えてる人だけじゃなくて、もっと幅広い層、普段は建築に接点の無い人たちに興味を持ってもらえる状況を作れたらいいなと思ったんです

 

谷尻さん「根底にあるのは『楽しい方がいい』っていう考え方。建築は予算・環境・条件・立地の全部が毎回違う。2度と同じことが起こらないから毎回、新しい刺激と発見があるんです。こんなおもしろいこと、みんなに知ってもらった方が絶対いいじゃんって思ってる」

谷尻さんの著書「1000%の建築」では自身の考え方や建築のおもしろさを紹介している。

 

「落ちこぼれにエールを送る」“サラブレッド”じゃない自分たちが出来ること。

建築事務所を開けた場所にするための活動には「自分たちが”サラブレッド”ではない」という背景もあるという。谷尻さんも吉田さんも、大学で学術的な建築の研究をしていたわけではなかった。

谷尻さん「もうちょっと勉強しとけばなって思うこともありますけどね。ただ、僕たちみたいにその道のエリートではない存在でも、視点を変えれば大きな価値を生み出せる。世の中って落ちこぼれの方が多いと思うんです。だから映画でもアニメでも、落ちこぼれが頑張って成功するストーリーは大きな『共感』を呼ぶ。僕たちは、”サラブレッド”じゃない自分たちだからこそ、世の中の多くの人に伝えることができると思ってます」

谷尻さんは、自分たちの建築業界での立ち位置を、医者にたとえて説明する。いざというときにしか会えない「名医」ではなく、常に暮らしの身近にいる「町医者」でありたいと。

 

谷尻さん「いつも社会に接続している場所にいたい。基本的にはストリート派だから(笑)」

吉田さん「いい意味で『作家性』がないというか。こっちがいいと思う素材とかデザインを提示するのではなく、お客さんに共感してもらえる『考え方』や『新しい視点』を提案しているんです」

建築家が自身の作りたいもののためにお客さんを「説得」するのではなく、お客さんと一緒に作りその人がいたからこそできる「納得」を重視する。そんな姿勢に、住宅、商業空間、インスタレーション、プロダクトとさまざまなフィールドで活躍している理由が納得できる。

 

大切なのは社会の能動性にスイッチを入れること

閉じられた世界を開いていくとき、谷尻さんたちが大切にしているのは「能動性をデザインすること」なのだという。ただ開け広げるだけでは、真の意味で社会とつながったとは言えない。

谷尻さん「閉ざされたものを開くときって、窓がデカけりゃいいってもんじゃない。たくさんの人が自分から『知りたい』って思うことが大切。こっちから一方的に発信するのと、向こうが『知りたい』って思ってるときに説明するのでは伝わり方がぜんぜん違う。だから重要なのは社会の能動性にスイッチを入れること。僕たちがやっている活動はすべてそのための仕掛けです

幅広い人たちに向けて閉ざされた世界を開いていくためには、共感を生み、能動的に「知りたい・踏み込みたい」と思わせる仕掛けを続けていくことが必要だ。

 

 

今後について尋ねたら、自社プロジェクトとしてホテルをつくる計画があるそうだ。

 

「僕たちがカルチャーに育ててもらった分、これからのカルチャーを創る」と谷尻さんは言った。

ホテルはヒトもモノもコトも、そして様々なカルチャーが交わる交差点だ。

その場で一体どんなカルチャーが生まれるのか?

近い将来、SUPPOSE DESIGN OFFICEが手がけるホテルのカタチを体験出来るのがとても楽しみだ。

 

 

kakite & kikite : 近藤世菜 / photo by  BrightLogg,Inc./EDIT by PLART & BrightLogg,Inc.

 


 

SUPPOSE DESIGN OFFICE/サポーズ デザイン オフィス

SUPPOSE DESIGN OFFICEは、谷尻誠、吉田愛率いる建築設計事務所。

住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、仕事の範囲は多岐にわたる。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外合わせ多数のプロジェクトが進行中。これまで手がけた作品は住宅だけでも100棟を超え、2010年ミラノサローネでの光のイスタレーション〈Luceste : TOSHIBA LED LIGHTING〉や〈まちの保育園〉などの公共施設、海運倉庫を改修した複合施設 ONOMICHI U2をオープンさせるなど地域と人の関わりをつくる仕事なども手がける。

サポーズデザインオフィス http://www.suppose.jp


社食堂

住所:東京都渋谷区大山町18-23-B1F
Facebook:www.facebook.com/shashokudo/
Instagram:@shashokudo



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