場をつくること=自分にとっての自然をつくること。【チョークグラフィックアーティスト・CHALKBOY】

PLART編集部 2017.4.15
TOPICS

4月15日号

今や、街中でチョークグラフィックを見かけない日はない。有名コーヒーチェーンや、おしゃれなレストラン、花屋、ショップ…黒板の上で文字が、絵が、踊り、花咲く。チョークグラフィックはすっかり私達にとって街の自然の一部になっている。そのチョークグラフィックの先駆けであり第一人者・チョークボーイがこの度、手紙舎で個展『Ink Blue』を開催した。

手紙舎での個展『Ink Blue』について

彼の仕事道具は、黒板とチョークだけと思いきや、実際には紙とペン、とくにインクと万年筆での作業が多いという。黒板に描くためのラフやアイデアノート、またお店や商品のロゴのサンプルなどがたくさん溜まっていて、今回はそれらを焦点にした個展だった。

今回の展示ではワークショップや講義もあり、アーティストとして独立するためのコツを教えてくれるという回があった。私自身とても興味があったので、その部分について聞くと、彼は自分の強みを「自分で値付けできることだと語ってくれた。自分の値段を決められないと、流行りや相場、予算の波に流されるしかない。うまく波に乗ることもできるけどね。けど、ちゃんと自分の価値を自分で把握できていないとね日本人が自分の仕事を値付けする場合、多くが時間や材料費といった計算式がでてくる。彼はこれがじゃまじゃないかと語る。

「材料費や時間換算は、これだけ費やしたという秤が欲しいだけであって、そこに「作品への価値」という基準はない。結局、価値は誰にも決められない。なので、そういう枠を取っ払って、自分が欲しい金額というのを純粋につけてみたらいい。誰かに値付けを依存すると、そこがしこりになって納得できなかったり、自分の仕事の正確な判断が鈍るから。勿論、たった一回の仕事で見積もりがうまくできるようになるのは難しいし、繰り返さないと値付けは正確にできない。自分も、交渉や失敗を繰り返して、やっと自分の作品の値付けをできるようになってきた」

彼の眼差しの先には、青いインクで描かれたたくさんのラフ画やアイデアノートがあった。キリンのハードシードルのロゴ、地球儀、人物のイラスト…ひとつひとつにストーリーがあって、そのイラストがその先どういうふうに広がっていったか、見ながら想像する。どことなく肩の力が抜けた感じのイラストは、彼の人となりを現しているようだった。どれも一つ一つ購入可能だ。

「あれはなんですか?」

その中で、一つの不思議な形をした世界地図を見つけた。

「あぁ、あれカッコイイでしょう?ダイマクションマップといって、バックミンスター・フラー博士がデザインしたもので。博士は「地球は丸く、天と地もない」って考えて、この天地がない地図を作ったんです。このデザインを紐解いていくと、彼の“宇宙船地球号”という言葉…というか思想かな、それに繋がっていくんですよ。そういう思想と、アウトプットが合致して、組み合わさっていて、それがすごくカッコイイ」

そう語る彼の顔はキラキラとしていた。彼がこの地図と出会ったのは高校生の時。美術系の課程がある高校に通っていたそうだ。その時、この地図と博士の「自分は自分の人生をかけたモルモットである」という言葉と出会い、高校生の自分に刺さりまくったという。そこから、なんでも試してみようという姿勢が生まれたそうだ。おかげで、今は安定とは真逆の実験ばかりの方向へ進んでいる、と自嘲していたが、その姿は私にはとても誇らしげに映った。

人と人がつながる場…『森、道、市場』について

チョークボーイは 別名で活動しているhenlywork(ヘンリーワーク)」として『森、道、市場』という音楽フェスに関わっている。通常のフェスと違い、フードや物販ブースと音楽の比率が逆転しており、しかも通常なら出店専門業者がきているところを、実店舗がある人気店ばかりが集まってくるフェスである。今年は5/12〜14で開催される森、道、市場 2017に、彼はEATBEAT!(イートビート)という食と音のコラボイベントでヘンリーワークとして出演、そして物販ではチョークボーイとしても出店する。

「EATBEAT!とは、料理を作りながらその音で音楽を作るんです。料理を作る音や収穫したりする音をサンプリングし、料理をつくりながら音楽もできていく、そしてできた音楽を聞きながら料理を食べるイベントなんです」

『EATBEAT! FIRE in 森、道、市場2017 』

聴覚や味覚といった境界を飛び越えて、まるっと自然を味わうような企画だと語る。じゃあ自然がテーマなのか?と聞けば、彼曰く違うという。

『森、道、市場』は自然を媒介にして、人とコミュニケーションをとるのが好きな人達同士が出会うイベントといった感じこの空気感で思い出したんですが、子どもの頃、毎週土日になると父親に山につれていかれたんです。そして、その山でしか会えない友達がいた。名前も知らない、どこに住んでるのかも知らない。でも、毎週そこにいくとその子に会えて、遊んでました

自然が、場が、人を出会わせる。つなげる。彼が“山の友達”と出会ったように、『森、道、市場』は、そんな人と人をつなげる場であるようだ。

尾道に“場”をつくる

なお、現在チョークボーイは尾道に住んでいる。移住したのは、つい昨年だという。

「出張が多くて月の半分しか家にいないのに、なんでこんな家賃の高いところ(都内)に住んでいるのだろう」という疑問を元に、「働く時間の自由は得た。では住む所の自由はどうか?という実験をしよう」と移住を決めた。

尾道を選んだ理由は、人の生きている感じがすごく面白かったからだそうだ。山と海がせめぎ合っていて、でもどっちも堪能できるかっていえばそうでもない。すごく狭い土地しか人が住める処がなくて、そこをシェアしてこじんまりしている。そのためか、5分歩くだけで景色がガラリと変わったり、ひょんな小道が実は大通りにつながったりと、あやふやな街の造りが実に味わい深い、と言った。

photo by chalkboy.me

「尾道に移ってからは、まだ何かが変わった訳ではないけど、働き方をすごく考えるようになったよ。東京のやり方をそのまま尾道でやったら全然家にいない。考えてみると、外に仕事があるからで、尾道に仕事がないからだと気付いた。そこで、仕事の場所をシフトするためにどうしたらいいかなと考えた時、自分にしかできないことがあるのであればそれをちゃんと強みとして、ちゃんとした拠点をつくろうと思った

ここに来たら確実に会えたり、依頼することができる、そんな核となる場所ができたらいい。しかも、チョークボーイという名前でというより、そういうのに興味がある人が集まる集団めいたものでできたら面白いな。

蟻が巣を作るのが自然なら、人が街をつくるのも自然。コンクリートだって、もともとは石だった。何だって自分で作ればいい。もともと世の中に存在した仕事なんてないし、これからもあるかどうかはわからないから。自分で環境をつくっていかないと。今年の後半は、その準備をするつもりです」

自分で環境を作る…新しい価値観を、どんどん発信していきたいと意欲を燃やす言葉とは反対に、その声音は実に穏やかだった。彼という人間そのものが、人々を引き寄せていると感じた。彼そのものが場なのかもしれない。展示されている青インクの作品たちの後ろには、彼とつながってきたたくさんの人たちがいる。それが今度は、尾道となる。彼が目指す尾道を核とした場づくりに、今後も目が離せない。

 

kakite :Yuki Fukushi Matsuyama /photo by Hayashi Yuba (クレジットがないもの全て)/ EDIT by:PLART


【チョークボーイ 個展「INK BLUE」】

会期:2017年4月4日(火)〜4月16日(日)

※4月10日(月)は定休日

営業時間:12:00〜23:00(22:00 LO)

場所:手紙舎 2nd STORY

東京都調布市菊野台1-17-5 2F

tel.:042-426-4383


CHALKBOY / チョークボーイ

カフェのバイトで毎日黒板を描いていたら、どんどん楽しくなってきて気がついたら仕事になっていました。日本をベースに世界中、黒板のあるところまで描きに行きます。最近は黒板以外のものにもチョーク以外で描くようになりました。ほなチョークボーイちゃうやん。関西出身です。最近「すばらしき手描きの世界」(主婦の友社)というHOW-TO本も書きました。

URL : www.chalkboy.me

INSTAGRAM : chalkboy.me

MAIL : zzz@chalkboy.me



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