【連載】アートのある暮らしvol.7 古さを紡ぎ、創りだす家。

PLART編集部 2017.6.15
SERIES

6月15日号

連載 アートのある暮らしとは?
日本のアートには3つの壁があります。
「心の壁」アートって、なんだか難しい。価値がわからない。
「家の壁」飾れる壁がない。どうやって飾るかわからない。
「財布の壁」アートは高くて買えない。買えるアートがわからない。
そんな3つの壁を感じることなく、アートのある暮らしを素敵に送ってらっしゃるお家を取材します。

 

年月を感じる趣深い屋根と、真っ白な壁が特徴的な『maru cyou』(まるちょう)のアトリエ。

足を踏み入れると、木の床やたんすに囲まれて自然と心が落ち着く空間が広がっていました。

グラフィック、油絵、彫刻、水彩、銅版画や写真…あらゆる分野で創作活動を行う伊佐さん。

3代続いてきたたんす屋『丸長』の工房をリノベーションしたアトリエ空間での伊佐さんの暮らしをご紹介します。

看板は昔のままを残している。

 

創らずにはいられない、生活の一部としてのものづくり

30年間勤めた美術予備校の講師を退任された伊佐さん。

同じタイミングでオープンアトリエやデッサン教室をここ、maru cyouで始めました。

個展とはまた違った場所で、言ってみれば「より日常的な空間に置いた、よそいきではないないモノたちも見てもらいたかった」ということからオープン・アトリエを行うに至ったといいます。

そして、デッサン教室について、

「人と比べられる世界ではなくて、12人しか入れないアトリエの空間の中で「今日はうまくいかないね、難しいね」なんて言いつつ、描くこと自体を味わってもらえるようにと考えています。紙に鉛筆をこすりつけるだけで、手に伝わる感触がなんとも気持ちよかったりするんですよ

 

伊佐さんのアトリエは、たんす屋の工房を活かした空間が広がっています。

古いものをきれいに整頓して、もう一度息を吹き込むような伊佐さんのアトリエ空間は伊佐さんの生活の美で溢れていました。

伊佐さんの生活はとてもシンプル。朝5時に起きて、ひたすらに創作を続けます。日が落ちて街が暗闇に沈む、煌々と明かりの灯されたアトリエでデッサンをしているそうです。

僕にとってものを創ることはやらずにはいられない、生活の一部のようなものです。例えば、体を動かすとスッキリするとか、温泉に入ると癒やされるとか、それが僕の場合はものを創ることなんです。自分がより良い状態になるから、毎日ものを作り続ける生活をしています」

伊佐さんの作品の源泉を辿りに、隣接するご自宅を覗かせてもらいました。

 

詩人の言葉から影響を受けた作品作りは、やがて空間作りにも繋がっていく

「誰か自分が作品を作る上で影響を受けた方はいますか?」

伊佐さんにお伺いすると明治生まれの詩人・西脇順三郎ですと返ってきました。

その中でも「旅人かへらず」という詩集1番のお気に入り。

詩集のページをめくると、たった一行「やぶがらし」なんて言葉だけのものも…。

忙しい日常ではあまり目に留めない、『つまらないもの』が数多く詠まれた彼の詩を読むと、自分の中の言葉にできない部分が、『そう、それだよね』と明確になる気がするんです。もちろん絵や彫刻の分野でもずっと好きな人はいるのですが、西脇順三郎のものに対するスタンスは、今も変わらず僕の芯の部分に存在している気がします」

ご自宅の2階にある作業場にお邪魔すると、伊佐さんは今まで毎日書き溜めてきた創作活動のアイディア帳を見せてくれました。余白まで考えられて描かれた絵はそれだけで画集のように見えます。

 

「今でもメモはよく見返します。20年前に書いたメモを見て『こんなもの作りたかったんだ』と思い出して盛り上がることもあります。大学生の頃から書き溜めているので、ダンボール何箱分もの量があるので整理するのは諦めました(笑)」

この天井が高く開放的な二階に広がる空間は、グラフィックを中心とした作業をする際の伊佐さんの仕事場です。

ところで、伊佐さんのアトリエやご自宅の『壁』にはほとんど作品はありません。その空間にしつらえられたのは大小様々なご自身の作品と家具です。

自分が暮らす空間では、壁や棚に何を飾るかよりも、ものとものの距離感を大事にしています。文字と文字の間にどれだけ間を空ければ、文字がより美しく見えるかという“スペーシング”と考え方は一緒で、より美しく見える距離感がもの同士にもあると思います。空間作りを考え始めるとキリがないですね…。そうしてこだわって配置した作品たちも、妻から見ると納得いかないこともあるらしく、通りがかりに配置し直されて、それを見てまた私が配置し直すなんてこともやっています(笑)」

奥さまはアトリエの隣のご自宅でお料理教室を開いています。伊佐さんと奥さまは、共に美大の卒業生という共通点があるそうです。

「結婚祝いに」と、木工職人だった伊佐さんのお父さまが創られたダイニングテーブル。奥の棚は伊佐さん作の棚。中にはテレビが入ってます。

 

奥さまの料理道具。色合いをシンプルにまとめて。

 

違いを理解し、心地よい距離感で互いの活動に関わってらっしゃるお2人。

奥様は伊佐さんの作品を教室に持っていき飾ったり、「こういうモノが欲しい」と制作をお願いしたりする事もあるそうです。

奥さまの黒板メモ(大きい方)は、奥さま発案による二人の共同制作。

 

ヒトは、どんなものにも意味を見出す力を持っている。

伊佐さんのアトリエ内には、外で拾ってきた錆びた釘も飾られていました。

なんの違和感を感じずに見えていたのはアトリエの雰囲気や、飾り方に秘密がありました。

「道端に落っこちているとただの汚いゴミに見えますが、真っ白なところに置いてみると、質感や影の出方から外で見るのとはまったく違う釘に見えてくるんです。同じように工具の中に紛れた鉛筆でも、周りのものをどかして、何もない空間に鉛筆1本を置いてみる。それだけでヒトは鉛筆に着目するようになり、なにか特別なものに見える気がします

ふとした日常に、自分で少しの空間を用意して何かを置いてみるだけでも、それがアートになる…。その集大成がこのアトリエなのでしょうか。

「今、僕が作る作品は小さいものが多く、興味のない人からすれば価値を感じない作品かもしれません。壊れやすいし、全てが上等な素材で作られている訳ではありません。でも僕の作品と対峙して何か意味を見出してくれれば、その人にとってその作品は、大切なものになってくれるのではないかと思っています。ヒトの心が、小さいものやつまらないものも、特別なものに変えてくれるんだと

以前は世田谷区にある砧(きぬた)公園に展示された大きな彫刻作品を創られたことも。(第5回・東京野外現代彫刻展にて)

 

伊佐さんのアートのある暮らしは、自分と向き合う時間を与えてくれる

アトリエを始め、奥さまがお料理教室をひらくご自宅にも、伊佐さんの暮らしは自分で創作するあらゆるアートに彩られていました。懐かしの黒電話があったり、2階のアトリエに続く階段にも作品が並べられています。

 

そこかしこに置かれた作品は確かに、一定の距離感を保ち存在し、1ひとつの作品をじっと眺め続けていたくなりました。

「自分の生活の空間に、大事なものだから置いてみるのか、置いてみたから大事なものになるのかそれはわからないですけど、なんでも良いと思うんです。何もない空間を作り、そこに1つ、ものでも作品でも置いてみてください。置き方1つで、それが自分にとってのアートになり得ますし、自分の心を変えてくれるものになるかもしれません

 

作ることと生活することが自然に重なり合った伊佐さんのアートのある暮らし。日常に溢れる何でもない時間を、かけがえのないモノにするかどうかは自分次第なのだと、気づかせてくれました。

 

kakite :  kinoshitaphoto by BrightLogg,Inc. EDIT by PLART

 


THANK YOU A LOT OF  Mr. ISA And Mrs.

◾️maru cyou オープン・アトリエ:

月に一度(くらい)の間隔で、アトリエにて制作したモノの展示と販売をおこなっています。

次回オープン・アトリエは 6/25 (日) です。

・次回のミニ・テーマは「ロボット」。その他いつもの、彫刻、絵、アクセサリー、黒板、匙などなどもあります。

詳しくはこちらhttps://marucyou.tumblr.com/open_atelierをご覧ください。

◾️maru cyou デッサン教室:デッサン描きたい人募集中です!

詳しくはこちら(https://marucyou.tumblr.com/dessinをご覧ください。

◾️tumbler及びInstagram

Instagram ID : maru_cyou

maru cyou 日々のブログ : https://marucyou.tumblr.com

 

◾️Fuu_zu kitchen 料理教室:

穀物菜食や発酵食を基本にした、少人数制の料理教室です

ご興味のある方はfuu_zu◎me.comまでお問い合わせください。(◎を@に変更お願いします)

 


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