【連載】アートのある暮らしvol.6 こころの贅沢を教えてくれる家

PLART編集部 2017.5.15
SERIES

5月15日号

 

東京の静かな住宅街の一角に佇むヴィンテージマンション。

アートディクターの佐藤利樹さん(以下、リッキーさん)のご自宅は、広々とした部屋の窓いっぱいに緑が溢れ、都会とは思えないほど静かな時間が流れる。

アート作品やアンティーク雑貨、日用品が柔らかい時間と調和するリッキーさんのアートのある暮らしに迎え入れてもらった。

飾ってあるのはポール・ジェンキンスの絵。この家に引っ越した頃に購入した

クリエイティブカンパニーYelloの代表を務めるリッキーさんは、インテリアショップ「シボネ」に勤務した後、独立。現在はさまざまなジャンルのデザイン、ディレクションまで多岐に渡り手がけている。

クリエイティブの第一線で活躍するリッキーさんが、生活にアートを取り入れる際に心がけているのは、自分に手の届く範囲で正当に評価された作品を買うこと。

高価な品で溢れかえった現代でも、日々に贅沢を感じられる自分なりの「アートのある暮らし」について伺った。

「贅沢したい!」と思ったのが、日常にアートを取り入れたきっかけ

リッキーさんがアート作品を買い始めたのは、5年ほど前のこと。最初に購入したのは、キース・ヘリングのリトグラフだった。

「ちょっと贅沢な買い物をしたいなと思った時に、何が自分にとって贅沢なのかな?と考えました。例えば、ヴィトンのバックを買ったとしても、みんな日常使いしています。ひと昔前までの贅沢は、日常になっていますし、関心も薄れているように感じます。その点、アートは日常と対象にあります。つまり、なくても生活するのには困らないもの。それを日常に取り入れることで、余裕を感じられたりする。30万円のバッグを買っても贅沢を感じられない時代に、3万円でも心にすごく豊かさを感じられるのがアートなのかもしれません

こちらは、東京・神田にあるギャラリーで買った、リキテンシュタインの直筆サイン入りリトグラフ。ウォールナット色の壁に、POPアートがよく映える。アートの中でもリトグラフは流通量が多い分、著名なアーティストの作品が手に届く範囲で買えるのが魅力だ。

 

あくまで暮らしの一部としてアート作品を収集しはじめたリッキーさん。

アートと近しいクリエイティブ業界に身を置いていることもあって、仕事にアートの観点を取り入れることもあるという。

リッキーさんがトータルディレクションやグラフィックデザインなどを手掛け、2017年4月にオープンしたリノベーションホテル「LYURO 東京清澄 THE SHARE HOTELS」は、そのビルが建てられた時代から活躍し、最近再び注目を集めているアーティスト、デイヴィッド・ホックニーの世界観からインスピレーションを得ている。

 

「LYURO」オープンにちなんで購入したデイヴィッド・ホックニーのポスター

 

 

付けられた価格が正当なのかどうか

 

こちらは、ブルックリンの骨董市で購入した絵画。

“付けられた価格が正当なのかどうか”

これは、リッキーさんが作品を購入するときの需要な判断材料。だからリッキーさんが選ぶものは、時代を経て市場価値がある程度定まった作品が多い。クリエイターが自分たちのためにつくる、アート作品の価値が無重力化された空間。

 

奥さまと息子さんとネコのポーちゃんとの「3人と1匹」の暮らしに、複雑な様ですっきりと置かれたアートのある空間は、まるで宝箱のようだ。部屋全体で見たときの統一感が不思議と出ている。

 

愛猫のポーちゃん

リッキーさん流のアート作品の並べ方には、なにかルールがあるのだろうか。

すべてが部屋の一部になっているのがベスト値段も買った場所もバラバラだけど、自然とすべてが調和している、そんな空間になるように、少し意識しています」

この部屋の中でリッキーさんの特にお気に入りは、キッチンに掛けてあるこちらの作品。

「妻が随分前に頂いたもので、ある街のあるおじさんのポートレイトです。キッチンに飾っていますが、よく考えると何故ここに?みたいな絶妙な違和感を放っているところが気に入っています」

自分たちの暮らしの中で調和してこそ、アートのある暮らしはより豊かになる。

備え付けの棚には、リッキーさんが世界各国の旅先などで見つけてきたアイテムが並ぶ

「こうやって棚にずらっと並べてあると、どれがいくら位するのかわからないでしょ?自分のフィルターを通して選んだものを、値段の高い安い関係なく並べて、『価値の無重力化』を楽しんでいます」

窯元の職人がつくった焼き物や、アメリカの雑貨屋で買ったフィギュア、アフリカの路上で拾ってきた洗剤のパッケージが、優劣なく配置されている。

どれも高価にも見えるし、本当はガラクタなのかもしれないと思えてしまう。
考えにふけりながら、いつまでも眺めていられそうだ。

 

アートを「買う」ことで見えてくるもの

アートを「見る」から「買う」対象へと変化させると、リッキーさんの言うように「自分のフィルターを通して選ぶ」ことになる。それは、かつて好きな洋服を買ってた感覚と近いそうだ。

 

「考えてみると、洋服を買う量が少し減った時期と、アートを買うようになった時期は近いんですよね。洋服のデザインは、半年前にコレクションで発表されて、売り出す頃にはファストファッションから10分の1の価格でリリースされたりする。その影響もあり、オリジナルを買うという意味での魅力が薄れ、贅沢ではなくなってきているのかもしれません。その反面、日本でアートはまだまだ一般的とは言えず、かつてのファッションのような、自分のフィルターを通して探す楽しみが残されている気がします。それが自分の価値観とか生活のレベルに直結したりするのもファッションと同じです。
僕みたいに『日常に贅沢を感じたい』と思う人たちの間で、これからアートがブームになっていく気もしています

 

洋服をコーディネートするみたいに、アート作品を取り入れて部屋に合わせてみる。

ちょっとした贅沢を感じたいときに、アートのある暮らしは、自分の生活の満足感をより上げてくれる。

「買う」の視点でアートを見たとき、人はどんなものを選ぶんだろう。

今、等身大の自分が買えるアートってどれくらいのものなんだろう。

そんな新しい発見が、暮らしを豊かに彩ってくれそうだ。

 

 

kakite : Shiori Yamakoshi /photo by BrightLogg,Inc./EDIT by PLART

 


 

佐藤利樹。プロジェクトデザイナー。 東京生まれ。日本大学経済学部卒。合同会社Yello CEO。 ライフスタイルエディトリアル ショップ「CIBONE」のビジュアル・イベント企画を担当。 独立後、レストランの内装やアパレルブランドのエキシビション空間演出を手がける一方、プロダクトデザインをスタート。 KDDI iida LSPより充電機「chargy」発売。同プロジェクトでELLE DECO YOUNG TARENT受賞。 毎年採れたてのオーガニックコットンで作る違いを愉しむ今年のタオル「コットンヌーボー」(IKEUCHI ORGANIC・グッドデザイン賞受賞)、 リサイクルブランド「RECYCLE STANDARD」、創業1585年現代の近江商人「西川庄六商店」等のディレクションが進行中。 トータルディレクションしたホテル「LYURO 東京清澄 THE SHARE HOTELS」2017年4月オープン。 ジャンルを越えて様々なプロジェクトで東京をデザインする。


 



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