【連載】アートのある暮らしvol.5 アートの入り口を教えてくれる家。

PLART編集部 2017.4.15
SERIES

4月15日号

 

連載 アートのある暮らしとは?
日本のアートには3つの壁があります。
「心の壁」アートって、なんだか難しい。価値がわからない。
「家の壁」飾れる壁がない。どうやって飾るかわからない。
「財布の壁」アートは高くて買えない。買えるアートがわからない。
そんな3つの壁を感じることなく、アートのある暮らしを素敵に送ってらっしゃるお家を取材します。

休日の昼下がり、井の頭線の駅前に降り立ちのどかな住宅街を抜けて歩く。あたたかい木のぬくもりが溢れる住宅が姿を表した。玄関を開けてすぐにある2階へ続く階段を登ると、枯れ葉を模した鉄の作品が目に入った。

今回、アートのある暮らしに登場してくれるのは高井勇輝さん。

高井さんは、WEBのサイト制作や、新規サービスの立ち上げ、空間ディレクションなどを担うクリエイティブディレクターの仕事をされている。創ることが日常にある彼だからこそ、アーティストを応援することに価値を置き購入する、高井さんの「アートのある暮らし」を覗いてみよう。

『fallen leaves -corrosion-』長坂 絵夢

一見、ただの枯れ葉にしか見えないこのアート。実はこの作品、土も枯れ葉も全てが鉄でできている

部屋の左手奥にはフローリングの床とも調和のとれた、鉄と木で作られたダイニングテーブルが見える。このダイニングテーブルは奥さま、治美さんの手作りだというから驚きだ。

「めちゃくちゃ重いんですよ」と無邪気に笑う治美さん。

『Topological Landscape 02』野村康生

高井さんのお気に入りのひとつでもあるこちらの作品は、黄金率に沿って山を描く、数学的なアプローチと芸術的アプローチを持つ野村さんの作品。

アートを集めるようになったのは、まずデザインへの興味から。

アートに興味を持ったきっかけを聞くと、高井さんはごく自然な形でこの世界に引き込まれていったと話してくれた。

高井さん「今でこそアート作品をいくつも購入するようになりましたが、子どものころからアートに慣れ親しんできたわけでも、何か印象的な出来事でアートにのめり込んだわけでもないです。小さい頃から本や音楽が好きで、それによって救われたり世界が広がったりした原体験があったので、何かを表現して誰かに影響を与えることに漠然と憧れを持っていました。そこから表現方法のひとつとしてデザインに興味を持ち始め、学生時代には自然と展覧会に足を運ぶようになりました。いくつかの展覧会の中でも、六本木の森美術館であった『笑い展』は印象的でした。元々パンクロックの持つ反骨心やエネルギーが好きだったのですが、堅苦しくなく、笑いの中にアイロニーがあり既成概念をひっくり返す部分に、パンクとの共通性を感じたんです。「これが良い!」って価値観は絶対的に正しい一つのものではなく、色々な価値観があっていいんだと思ったのもこの頃です。

多様な価値観の許容こそが本当の自由で、アーティストがそういう独自の価値観を生み続けられる社会が理想だと思うようになりました

高井さんがアート作品を実際に購入するアクションを起こしたのはもう少し先の話。

アーティストが創作活動を続けるためにも、作品を購入し、アーティストに収益が分配されることが必要だと頭では分かっていても、実際に購入のアクションにはなかなか踏み切れなかったという。

高井さん「そんな価値のあるアートがこれからも作られるために、作品を購入することの必要性はずっと感じていました。だけど、飾る場所もないし、自分の中の価値判断ができていないことがあって、なかなか作品を購入できずにいました。例えば、シャツに1万円と言われると判断出来ますが、アートに1万円と言われると判断が出来ずになかなか踏み切れなくて…。

高井さんのはじめての作品
『I hear your heart beat』Wisut Ponnimit

「社会人になった2011年の正月、ついに決心して以前から好きだったタムくんのリトグラフを購入しました。

リトグラフとはいえ世界に1点しかない物を購入したことに、想像以上の満足感でしたね

アートの購入に対して前向きだった高井さんですら、実際に購入するまでには心理的障壁があった。であれば、アートを意識したことがない一般の人はなおさら購入までに心理的、物理的な障壁は多いはず。

高井さんはそんな人たちに向けてヒントをくれた。

もっと多くの人に「買う」というアクションを促したい

・アートをはじめて購入した時の満足感。

・アートを購入することでアーティストの志を応援する意識。

この2つをもっと一般の人にも味わって欲しい。

こんな思いも重なり『3331 アートフェア』のプライズセレクター(造語:自分の名前の付いたプライズ[賞]をアーティストに授ける役目)や、トークイベントのファシリテーターを努める高井さん。

高井さん「プライズセレクターは、アートを購入したい気持ちがある人の少し先を行き、実践する存在です。『判断のしどころ』や『Topological Landscape 02』などの作品も3331アートフェアで購入しました。アートの購入には、アーティストやギャラリーの人と話し、作品の背景にある思想やアーティスト自身を理解することが重要です。作品を作り、その先にいるアーティストが社会に対してどんな想いを表現しようとしているのかを知る。アーティストのそんな想いを応援することがアート作品の購入だと思っています」

『判断のしどころ』黒川彰宣

こちらは、ロープで出来た風変わりな形をした作品、『判断のしどころ』

ロープはほどけば紐になり、紐はほどけば糸になる…。

いったいどこまでが何なのか、「境界」に対する問いをロープで表現し、生と死の境界の心臓を形づくることで、人生は常に判断の連続でできていることを表現しているという。アートはビジュアルだけでなく、作品に込められた想いこそが重要だ。

アートの価値は、買う人がいることで初めて生まれる

アートの価値は、売り手(アーティストやギャラリー)だけでなく、買い手がいることで初めて生まれると考えているようだ。

高井さん「アート作品の価格を決定するのは、アーティストやギャラリーです。ただ、価格が決まっただけでは価値が発生しているとは言えないと思います。作品価格の価値を感じてお金を払う人がいて初めて、その作品に本当の価値が生まれたと言えるアートの価値は、買う人がいることで初めて生まれると思います。『この作品はこういう解釈が出来て、こういうもので……』と色々と言えるのは価値を認めて購入した人の特権です。しかもその価値は、相対的なものでしかなくて、10年後には100倍になっているかもしれない。そういう部分がアートの面白さでもあります

アート作品の購入には、正しい解釈や、事前の知識の必要性を多くの人が感じているのではないだろうか。ところが実は、正しい解釈は重要ではなくて、価値を見出してお金を払った人の解釈が正しいのでは?そんな高井さんのアートの解釈に、目からうろこが落ちた。

高井さん「価値が一定ではないからこそ、そこに価値を見出した人の解釈は正しいし、別の解釈や価値観があったとしても、それもまた正しくて、様々な解釈があって良いものがアートなんです

そう考えると、自分判断にも自信がつき、展覧会に足を運び、自らアートを購入するのは、有意義で楽しい時間かもしれない。

このアート作品を購入して家に置けるだろうか?

もし家に置いたらどんな雰囲気になるだろうか?

これからは、ワクワクを胸にもっと自由に「アート作品を見に行こう」と思えた、アートのある暮らしだった。

 

kakite : BrightLogg,Inc./photo by Hiroyuki Otaki / EDIT by PLART 


Thanks a lot for  Youki & Harumi

REVOLTMARK : http://www.revoltmark.com/


 



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