世界が広がるきっかけをアートで伝える【NPO法人 AIT ディレクター 塩見有子】

PLART編集部 2017.3.15
TOPICS

3月15日号

現代アートをより身近に感じてもらうため、東京を中心にアートを学べる教育の場、アートに触れ合える場を提供し続ける、特定非営利活動法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]。(以下「AIT」)

教育の場である「MAD – Making Art Different」(以下「MAD」)は開講17年目。約2100人もの受講生を輩出してきたMADでは、講義やワークショップ、アーティストとの対話を通して、現代アートの理論や実践を学ぶことができる。

MAD2017のチラシ
Design by Masayoshi Kodaira

また今年10年目の開催になる「ART IN THE OFFICE」(主催:マネックス証券株式会社)は企業内にアートを取り入れる試みを行っている。

アートの専門家だけではなくビジネスの専門家も審査員として参加しているこちらのプログラムは、現代アートの分野で活動するアーティストであれば誰でも応募が可能になっている。

AITが主催・協力しているアートプロジェクトのチラシ。

「アートを求める人が大勢いる。気軽にアートに関われる場所を作りたい」

ーー日本では、現代アートがまだ広く親しまれていない時期に、なぜAITを発足したのですか?

塩見さん:AITは2001年、私以外の5人の仲間と共に立ち上げました。

当時、美術館の作品購入予算がゼロと言われ、アートシーンは停滞ムードがありました。そんな厳しい環境の中、2001年の現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ2001」には、約500人のボランティアスタッフが参加して様々な方面から展覧会をサポートしていました。

アートに関心のある人が数多く存在するにも関わらず、美術館は元気がない。そんな時代でした。海外でアートを学び、そこで日本とは違うアートへの敷居の低さや親しみやすさ、そしてアートについて活発な議論が行われる土壌があることを知って帰国しました。一緒にAITを立ち上げた仲間達とは、東京で同じような環境や文化をつくりたいという想いを共有していました。

その当時、私たちからみて、日本のアート業界は足りないものがたくさんあるという認識でした。アートに関心のある人がもっとアートに触れ語り合う場を作るために私たちができることを考えた結果、現代アートの歴史や、キュレーションを学べる現代アートのスクールをはじめることにしたのです。

4_mad_room

MAD授業の様子 Photo by Yukiko Koshima

     ーー「ART IN THE OFFICE」では何をしているのですか?

ART IN THE OFFICE」は、マネックス証券株式会社(以下「マネックス」)が主催、AITは運営協力として関わっており、受賞者にはマネックスの本社プレスルームに1年間作品を展示するという公募プログラムです。

アート作品が展示されていることだけではなく「作品を創っている作家を知ってほしい」という想いのもと、必須ではありませんが、昼休みの1時間を使ってマネックス社員が作家と交流できるワークショップやトークなどもプログラムに組み込んでいます。

作品制作の一工程を追体験したり、一緒に手を動かしたりと作家によって内容は様々です。

このプログラムを始めた当初は、マネックス社員も会議室で作家が制作している様子を見て「何をやっているんだろう」という反応でした。

作家によっては制作時にわざとドアを開けておいて交流しやすくしたり、ワークショップによって作家のファンになり作品を購入したり、展覧会に足を運ぶ社員も出てきたりと、少しずつ交流が生まれるようになってきました。

長年継続し続けたからこそ、緩やかではありますが会社の中に着実な関心の輪ができているのを感じています。

MADの受講生にも、自分が働く会社の中でアートプロジェクトを立ち上げる方が増えてきました。

外資系大手コンサルティング会社では、社員からの声で、実際に社内でアートプロジェクトが実現した例もあります。

結果が見えてくるまでの約10年程度プログラムを継続するには、上層部にアートの重要性を理解してもらえるような働きかけをAITとしても行っていく必要があると感じています。

「既存に捉われないアートから感じられるインスピレーションを日常に」

  ーーアートがもっと身近に感じられるようになるために、必要だと思うことはありますか?

アーティスト・トークなどの機会を利用して、作家の声を直接聞くと良いと思います。話をじっくり聞いてみると、作品制作の背景や裏話などがわかり作家や作品への関心が深まります。
他には、Instagramで国内外のアーティストをフォローするところから始めるのも良いと思います。例えばニューヨークのMoMAやNew Museum、ロンドンのTateInstagramはおすすめです。

MoMA(Instagram)
New Museum(Instagram)
Tate(Instagram)

ビジュアルの力が強い写真が多数掲載されているので、特にクリエイターやデザイナーの方々はインスピレーションを感じるのではないでしょうか。

そういう側面では、ビジネスの枠組みを超えて新しい概念を打ち出している企業の経営者達は、既成概念に捉われない現代アートを好む傾向があるのも頷けます。

AITのレジデンス・プログラムに参加、来日した海外アーティストのお土産。


今後のAITの展開のひとつに、さまざまな環境下にある子どもたちとのアートを通じた学びのプログラムがあります。

例えば、児童養護施設にいる子どもなど、社会的養護の必要な子どもを含むあらゆる子どもと、彼らに寄り添う大人たちや支援者がともにアートやアーティストの考え方を介して、彼ら自身の表現力を引き出しながら、新しい世界に出合うことができればと思っています。

アートを通じて世界が広がる体験を、もっと多くの大人達、さらには子ども達にまで届けていきたいと思っています。

塩見さんとAITスタッフの皆さん

 

編集後記

取材を終えて在り来たりな言葉だけど、「世界を広げる」という言葉が浮かんだ。

塩見さんの原体験や、AITが関わる多くのプロジェクトの話を聞いて、日本そして、世界中で「アート」を好むビジネスマンや、クリエイターが多く存在すると知った。彼らがアートから得るインスピレーションは仕事や生活の中で何を作り出しているのか?  それは「新しい価値」だ。

アートを通じて、自分の知らない表現に出会う、知らない世界を知る。そして、その先に自分の表現があることを知る。表現が交差することで新しい価値が生まれて、新しい世界を見ることが出来る。

塩見さんはただ純粋に作り続けてる。
アートに興味がある人がもっと世界を知ることの出来る入り口を。
企業とアーティストとの交流で生まれる価値を。次世代の子ども達へのプレゼントを。

アートを通じて、世界を広げるきっかけを作り続けてる。

とてもワクワクする時間でした!(kakiuchi)

 

AIT事務所内に飾ってある数枚のアート作品を見ていると、どこか穏やかな気持ちになり、ふと無心になる感覚を覚えました。最初は難しいことは考えず、写真を1枚家に飾ってみる、美術館に行く、そんな小さなことから、精神的な安らぎや創造性の向上を感じそうです。アートが自分の生活を豊かにしてくれる予感がしました。(kinoshita)

 

kakite : kinoshita / photo by : Mahalo   / EDIT by:PLART & BrightLogg,Inc.


 

塩見有子(しおみ ゆうこ)

学習院大学法学部政治学科卒業後、イギリスのサザビーズインスティテュートオブアーツにて現代美術ディプロマコースを修了。帰国後、ナンジョウアンドアソシエイツにて国内外の展覧会やアート・プロジェクトのコーディネート、コーポレートアートのコンサルタント、マネジメントを担当。2002年、仲間と共にNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]を立ち上げ、代表に就任。AITでは、アーティストやキュレーター、ライターのためのレジデンス・プログラムや現代アートの教育プログラムMADを始動させたほか、メルセデス・ベンツやマネックス証券、ドイツ銀行、日産自動車などの企業との連携事業を含む、企画やマネジメント、組織運営を行う。

AIT HP
1回から学べる現代アートの学校「MAD」
第10回ART IN THE OFFICE平面作品募集中(4/3〆切)


 



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