「泊まれるアート」BnA HOTEL Koenji【アートディレクター・大黒健嗣】

PLART編集部 2016.12.15
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12月15日号

 

東京・高円寺に今年、3月に完成した「泊まれるアート」がコンセプトのホテル「BnA HOTEL Koenji」をご存知だろうか?
国内外問わず様々なメディアに取り上げられた事もあり、一度は目にした事はある人もいるかもしれない。
大注目のアートホテルはアーティストが一部屋ごとに作品を作り出し、その部屋に宿泊することができる。
そして、作品の購入も可能。
現在、池袋・高円寺・京都で展開されている。
高円寺では1階はバーになっており、ここで定期的にイベントや展示が行われ、地域の人と旅人が交流が生まれている。
 
(Room1・IntoTheForeign/Artist 高橋洋平)
 
 
今回は共同代表である大黒健嗣(ダイコク ケンジ)さんにホテルが完成してから、ここで生まれてきた繋がり、アートディレターという仕事について話をお聞きした。

  ーーなぜ、BnAを作るのに、高円寺を選んだのですか?

 

大黒さん(以下、大黒):

もともと僕は高円寺でオルタナティブスペース(AMPcafe)をやってたんで、そこで次のプロジェクトをやるのは自然なことでした。 BnAのチームのメンバーが高円寺に興味を持って会いに来てくれて意見交換する中で、いろんなことが噛み合っていき、 結果的に僕はBnAプロジェクトにジョインし、彼らは高円寺にやってきました。

高円寺は様々な人、店がいたるところにあるんだけど、そのサイズ感がちょうどいいんです
歩ける範囲、仲良くなれる距離感にいろんなことがカオスな状態で密集している。
BnA hotelの取り組みは、アート空間に泊まることだけでなく、その周囲にある物事、例えば人や地域、文化などローカルにリアルに息づいてる社会に触れる体験を演出しようとしています。 僕らにとって、建物としてのBnAは寝室と受付。 [BnAプロジェクト]は、大型のホテルにあるレストランや宴会場、大浴場その他エンターテイメント施設については、もともと街にある魅力的な個人店などを紹介していくことで、街ごと大きなホテルのように楽しめる状態に演出していこうとしています。
そういった意味で、高円寺は当たり前にコミュニティがあって近所付き合いができるし、道路が歩行者天国に近く廊下感覚で歩けるし、個性的な店が並んでるんで、発見の多い散歩が楽しい街。 実際に、BnAでの宿泊をきっかけに高円寺のアートスペースなんかを回ってるうちに、どんどんこの辺りの魅力にハマっていって結局東京滞在中のほとんどの時間を高円寺で過ごすゲストも多いですよ。

また海外からのアート好きの旅行客からの視点を意識することで、結果的に今までよりもスケールアップしたものの見方で、次にどんなアートプロジェクトに取り組もうか、とかどんなコミュニティーを目指そうかというイメージをよりたくさんの仲間と共有できるようになりました。

日本人アーティストと、海外との架け橋にもなっていく。

大黒:僕らはアーティストの海外での活動支援にも力を入れてます

BnAプロジェクトを通して、海外からのアートプロジェクトへの招待や作品オーダーがわかりやすく増えました。
今年はシドニーにミューラル(壁画)のプロジェクトでBnAに関わるアーティスト二人と壁画を描きに行ったり、バンクーバーで高円寺ポップアップという展示会を開催したりしました。

宿泊客も半分以上、おそらく7割近くが海外のアート好きで、アート関連の仕事をしてる人がビジネス上の出会いを求めていらっしゃる場合も多々あります。 頻繁にホテルのバーで宿泊客と飲みながら交流を深める中で、今後仕事で行ける国、泊まれる場所やサポートしてくれる知り合いがどんどん増えていく状態で。 もちろん飲みの席の話ではありますが(笑)、実際に後日展開していく話もあって、そういうのは本当に面白いですね。

「日本のアーティストへ海外での評価」という大きな問題はまた別として、日本のアーティストが海外でアーティストとして活動していけるかどうか、これは未知な領域にあると思います。まず事例が少ないですから。

少なくてもこれまで僕のフィールドで、僕自身が得た肌感でいうと、実際に海外に向けて情報を出したりことを起こした時の方が日本での時よりもリアクションが良く実現するのが早かったりもしますし、日本はアーティストにとって、とてもやりにくい環境なんじゃないかと思っています。
やりにくい環境だからこそ日本のアーティストは知恵をしぼるし、独特なクオリティーを持っていてそこは勝負できるポイントではあるだろうけれど、もっと普通に日本以外の国で勝負してみてもいいと思います。だからそのきっかけや土壌は作っていきたいです。

BnAホテルを通じて高円寺が海外でアーティストビレッジのような注目のされ方をし始めたら、ここで起こすことがそのまま海外での活動の足がかりになるだろうし、みんなどんどん世界中あちこちに出て行くようになったら、よりこの街が面白くなると思うんですよね。

アートにおける既存のルールや正攻法にとらわれず、勝手にどんどんアーティストが海外へ飛び立っていく状況を作っていきたいです。

縦割り組織ではなく、横並びでチームワークを活かすこと。

 大黒:BnA株式会社のメンバーは、福垣は建築家。田澤、前田は事業家。僕はディレクターで4名。

そこに高円寺のプロジェクトでは、ホテルの1Fのバー[FRONT DESK]の店長でホテル全体の支配人の役割を担う石上が加わりました。
各部屋の制作には、アーティスト始め、様々なクリエイターが参加しています。
アーティストの制作アシスタントなど、様々な才能と技術の結集で一つ一つの部屋が作り上げられていきました。
僕たちは、それぞれのバックボーンから自分ができることを活かし合い、ホテルのプロジェクトに発展させるイメージを持っています。
他の肩書きを持って他の環境で吸収してきたものを混合させることで新しい価値を創り出していける。
だからそれぞれの職能がバラバラなことが面白いし重要。 これからもっとプロジェクトが成長していくためにも、一致団結する部分と、それぞれやりたいことを極めていく自由のバランスを大切にしていきたいと僕は思っています。 目的を個々に持って集まり、結果的に全体が大きく一つの方向へ進んで行くのが理想です。

bna_team

街のコミュニティーデザインの観点でも同じことが言えます。

アーティストは自由が好きな生き物だし、そもそも僕自身、組織的な縛りは好きではない。
一方で大きなことを成し遂げるのはいろいろな才能との協力が必要ですししっかりと組織だった動きも時には必要です。

独立した自由で無所属な個人が協力し合える方法を考えたりそういう雰囲気を作り出すことも、僕の役割の一つです。
「コミュニティーを作る」と言い切るのは傲慢で支配的なイメージがあって全然違うんですけど、 ここにこういう人がいたらなー、こんなスペースがあったらなー、という欲求と、こういうことがしたいという才能との出会いをうまく掛け合わせながら、理想的なコニュニティーが自然発生するための条件を満たしていくという、長期目線の投資的な仕事ですね。

「アートで街を巻き込みたい。」

   ーーそういった大黒さんはアートディレクターだけでなく、ギャラリストでもあるし、音楽活動もされてる。

大黒:アートディレクターって言葉あってるのかわからないし。なんていっていいかわからないからとりあえず使ってる感じです。そもそも固定の場所にずっといたくない。というかいれないんですよ。笑。
でも高円寺に10年いれたしアートに関係したことをずっとやってる。だからやっぱり高円寺もアートも面白いんだと思います。
将来的には、行きたい場所に行ってみるというような世界中をウロウロする生活をするのが僕の夢なんですが、そこで出会った人たちに「あそこへ行ったら間違いなく楽しいぜ!」と自信を持って伝えたいし、そこからまた新しい出来事やビジネスが生まれるような土壌を作っておきたいってのもありますね。

究極的なことをいえば、僕はアートを、見える世界をもっと面白くする起爆剤として捉えていて、それを暮らしの中でどんどん街に注入していきたいです。
まだまだ周りは半信半疑な視線も多いけど、一年前より少なからず変化は感じています。  今後は視野の広さ、大胆さ、クオリティー、価値を見極めることなどへの意識がアートの力によって刺激を受け、クリエイティブな発想が生まれやすい、実現しやすい状態になって初めてアートが生活の中で身近にある意義になります。 僕はそういう環境が現実に生まれていくきっかけを作っていきたいと思います。

「一体お前は結局なんの仕事してるのか」とよく聞かれるし正直自分でもほとんど定義できてないんですけど、まあそれも気に入っています。 なんでも、一緒にやりたい人、常に探しています。 常時募集中です!

暮らしをもっと面白くする方法にアートがあること。
アートの感じれる環境を、刺激を、提供することを行動し、体現している大黒さん。
みんなから、「あんちゃん」と呼ばれている。周りの人に聞くとひとつ屋根の下の「あんちゃん」的な感じらしい。なんかわかる。笑
これからの世界に必要なのは、どんな場所にも突っ込んでいくフットワークの軽さ・オープンなマインドで言語を越えてつながる力なのかもしれない。そして、しがらみに囚われない生き方も。大黒さんと話していてそう感じた。

生活の中の一つのジャンルにアートがあって、一つの新しい価値観が生まれる楽しさを筆者も知りたい!

kakite & kikite by kakiuchi naomi


大黒健嗣 DAIKOKU KENGO

青森県出身。 アートディレクター・ギャラリスト・ラッパー。
2006年慶応大学SFC卒後、2008年より高円寺のオルタナティブスペースAMPcafe(アンプカフェ)をスタート。

高円寺のAMPを中心に六本木アートナイト等、日本中で様々なアートプロデュースを手掛ける。 元ラップグループMetrofield所属。
自身のキュレーションするギャラリーを軸に、パフォーマンスイベント、 パーティー会場としてジャンルを広く横断しながらも高円寺の空気も経由した独自の視点で次々と企画を立て開催中だ。

BnAlogo

BnA HOTEL Koenji
HP : http://www.bna-hotel.com



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