ヒトも、アートも、全部一緒にかき混ぜる【アーティスト EAT&ART TARO】

PLART編集部 2017.7.15
TOPICS

7月15日号

 

生きていく上で欠かせない「食べる」という行為。

あまりにも日常に溶け込みすぎて、今さら改めて考えることはあまりないかもしれません。

 

飲食店で、メニューを選んで、頼んで、食べて、帰る。この流れはあたり前のことなのですが、窮屈に感じたことがありました」

EAT&ART TARO(以下、TAROさん)さんの表現する「食」と「アート」

人々が『戸惑う』ことに作品の価値を置くと話すTAROさんは、どのような表現されているのでしょうか。

 

おごり、おごられ合うことで、ぎこちない人間関係をかき混ぜたい

 

TAROさんが初めて作った作品は、その名も「おごりカフェ」。

つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅という、新しい路線の開発と共につくられた新しい街で、街づくりの一環で依頼をされて考えついたのがこの作品です。

自分で食べたいものを選び、お金を支払い、商品を受け取るという普通のカフェシステムはそのままに、おごりカフェが他とひと味違うのは、渡される商品は自分がオーダーした商品ではないという点。

ひとり前の人が頼んだメニューを受け取って「おごられた」ことになり、自分のオーダーは次に来た人に渡されて「おごった」ことになる。それがおごりカフェのシステムです。

「おごり、おごられるという関係は、普段は密接な関係でないとできないと思うんです。土地開発されたばかりの住人が皆、新しい人しかいないこの地域で、おごりおごられ合いをさせることで、人間同士の関係性も距離感も全部かき混ぜてしまおうと思ったんですよね

そこにいる人々がみな、「はじめまして」のぎこちない関係なのであれば、親密な関係でしかできない行為を先にさせて、強制的に親しくさせてしまうという試み。
今までとは違う方法で人間関係を築くことができるカフェです。

「お客さんが自分のメニューを受け取った人のところにスッと近寄って『メニュー、大丈夫でしたか?』なんて話しかけたり、行列に並んでいる人同士でお喋りしたりと、自然と仲良くなっちゃいますよね」

 

アートと言われると額縁に飾られた作品をイメージしがちですが、TAROさんの作品は、実際に参加したりコミュニケーションの場を作ったりしながら作品を鑑賞する、食とアートの体験型の世界です。

 

飲食店では許されない「何か」を表現できるアートの世界へ

アート活動する以前、調理師として働いていたTAROさん。

アート好きな父親の影響でアートにも小さな頃から興味があったといいます。

 

次第にTAROさんはアートへの憧れを募らせていきます。

そんな中、墨田区のギャラリーで食事を振る舞うパフォーマンスをきっかけに、TAROさんに声がかかるようになります。ケータリングという言葉もなかった17〜18年前、ギャラリーやイベントに出向いて食事を出してくれるTAROさんの活動は、求められていた形態だったのでしょう。

ケータリングを中心に、時には美術館の企画展のカフェの立ち上げも行うこともありました。

調理師という自分のスキルを生かして、アートに関わる道を見出し、そこから食のアーティストとしての活動を広げたTAROさん。

そこには、調理師として働いていたからこそ考えられる1つの想いがありました。

 

「すごく美味しいとか、キレイだなって思える盛り付けは、『食べる』を目的にした飲食店がやることです。おごりカフェみたいに、自分が食べたいものが出てこないなんて、飲食店だったら絶対許されないことを表現できるのが、自分たちのアートの世界です

アートでは、キレイに盛り付けられた食べ物が出てきて美味しく食べ、お金を払って帰るという当たり前でなくてもいいのです。

 

イチハラ・アートミックスで発表したTAROさんの作品『おにぎりのための、毎週運動会』。これは美味しいおにぎりを食べるために150人でわざわざ2時間の運動会をするというもの。



 

「素材や塩にこだわった、美味しいおにぎりを出すのは飲食店の仕事です。ここでは、運動会でみんなで協力して汗を流したからこそ、本当は普通のおにぎりが、なぜがすっごく美味しいと感じてもらいたかったんです」

飲食店とは違った『美味しい!』を体験できる場を提供するのが食のアーティストTAROさんの作品の原点でもあります。

 

未知の感覚と出会う戸惑いを感じて欲しい

作品のアイディアは1人で考えたり、実際に芸術祭が開かれる土地をリサーチし、その地で自分ができることを考えていくと話すTAROさん。

ところが、思い付いたアイディアを人に話して面白いね、良いね!という反応をされると、そのアイディアは人の想像を超えるものではないので、作品としてはつまらないと思ってしまうとTAROさんは言います。

 

アートというのは『こんなことしても良いんだ!』と人の枠を押し広げる仕事だと思うんです。今までの自分の中になかった未知の感覚に出会った時に、人は戸惑いを感じます。だから、単純に素敵とか面白いではなく、戸惑いを感じさせることで、人の感覚の枠を飛び越える作品であって欲しいです
この他にも、2013年に参加された瀬戸内芸術祭での『島スープ』。

瀬戸内芸術祭は多くの作品を見ながら数々の島を巡るツアーなので、帰る頃にはどの島にどんな作品があったのか忘れてしまいがちです。

そこで、TAROさんは島の記憶が希薄になってしまわないよう、食を通して島の記憶を留めてもらえる様に島スープの作品を作りました。

実際にTAROさんが島民の方たちに聞いたエピソードから、インスピレーションを受けて作られたスープを食べてもらって、目や耳だけの記憶ではなく、味覚から島を思い出してもらうというものです。

2016年の瀬戸内芸術祭では『ALL AWAY CAFE』を開催。

スタッフ全員を合わせると12もの言語を話す様々な国籍の人々が対応する、英語も日本語も通じないカフェです。オーダーをするにも、同じ土地にいながら全員が同じアウェイ感を抱いてしまうというこの作品。

芸術祭にやってくる観光客と、迎える島民の関係が、ゲストとホストの関係になりすぎてしまっているのを、かき混ぜたいという想いからこの作品は生まれました。

 

社会の内の、ギリギリの場所で手をふる存在になること

「社会というものは、いつもウニュウニョ動いてアメーバのような複雑な形をしています。アーティストが出来る事は自分の表現したい場所1点を決めて、その場所に立つ事。そこから、『ここだよー!』と社会やみんなに向かって手を振っているんだと思います。

社会の内側(人の想像の範囲内)で点を打つとありきたりな物になったり、逆に社会から遠い遠い外に点を打つと、想像を超え過ぎて誰にも理解されない作品になります。そういうのも、愛しかったりしますけどね(笑)

 

結果、社会の内と外、境界線のギリギリの場所で手を振ると、それは今までになかった新しい価値になります時代の背景や社会の動きのなかで、その「価値」に引っ張られる様にヒトが集まっていく。

時代の流れをアートが作っていく。それがアートの面白さでもあり、役割だと思ってます。

僕としては、自分が知らないものに出会う面白さをうまく知ってもらえる作品を作りたいです。感覚がジャンプする感じがないと、アーティストの作品とは言えません。楽しい、面白い、とはジャッジができない異質のもの。アートとはそういうものなのではと思っています」

 

9月に開催される奥能登国際芸術祭では、キャバレーを作品として発表するというTAROさん。

 

「珠洲には電車も高速道路もなく、車やバスしか交通手段がありません。先日、地元のおばあさんに『こんなシャバの地獄に何にしにきたんだい?』と言われました(笑)

珠洲では芸術祭の会期中、ほぼ毎日どこかの地域で祭りを開催されてます。昔からの風習や習わしが残ったままの土地にはそこにしかない濃く面白いモノが多くあります。地元の人には当たり前すぎて、気づくことのない珠洲にしかない魅力と、そこを訪れる外部の人たちが僕の創るキャバレーで戸惑いを感じ、ごちゃまぜになってくれたら、と面白いことを考えてます」

TAROさんは、食をテーマにしたアーティストとして人の固定概念や、人間同士の価値観の違いをかき混ぜ、戸惑いや、枠をはみ出す力を与えています

 

今度の舞台は、能登半島最涯(さいはて)の地。

そこには「こっちだよー!」と手を振ってるTAROさんの笑顔があります。

 

取材場所協力:東向島珈琲店 http://www.cfc101.com/

 

kakite :Hanako Kinoshita /photo by BrightLogg,Inc./EDIT by PLART & BrightLogg,Inc.


EAT&ART TARO

1979年 神奈川県生まれ。調理師学校卒業後、飲食店勤務、ギャラリーや美術館などでケータリングなどを経て、現代美術作家。

 

主な展覧会、プロジェクト等

2008 「おごりカフェ」柏の葉UDCK

2009 「缶詰アーカイブ」墨東まち見世

2010 「レトロクッキング」墨東まち見世

2012 「食通 food correspondence」Creative Hub131

2013 「島スープ」 瀬戸内国際芸術祭 

2014 「おにぎりのための毎週運動会」 いちはらアートミックス

2014 としまアートステーション

2015 森のはこ舟アートプロジェクト

2015 「ザ きゅうりショー」「クローブ座」 越後妻有アートトリエンナーレ

2016 TURNフェス 東京都美術館

2016 「ALL AWAY CAFE」「讃岐の晩餐会」瀬戸内国際芸術祭

2016 南郷アートプロジェクト

2017 TURNフェス 東京都美術館

 

奥能登国際芸術祭2017

2017年9月3日から10月22日までの50日間

石川県珠洲市全域  詳しくは http://oku-noto.jp

 



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