「KOGEI」 それはアート化する工芸の進化。 【金沢21世紀美術館 館長 秋元雄史】

PLART編集部 2017.2.15
TOPICS

2月15日号


 

「金沢」と聞いて、まず思い浮かぶ名前の3つの指には入るであろう「金沢21世紀美術館」

ここで現在、開催中なのが「工芸とデザインの境目」展である。

今回、館長の秋元雄史さんと一緒に展示を回っていただき、金沢の新しい工芸についてお聞かせていただいた。今展示監修はプロダクト・デザイナーの深澤直人さん。どの展示室にも、中央に一本のラインが通っている。工芸とデザインの分かれ目を表してる。微妙な位置関係を眺めるのが楽しい。

 

工芸とデザインの境目展は、2017年3月20日(月・祝)まで金沢21世紀美術館にて開催している。

「工芸」とは?「デザイン」とは? 

その境目とは、何だろうか?

筆者が考えるに工芸は昔から暮らしの中に根付き、「使うもの」という印象がある。デザインは最新であり、シンプルであり、機能性が高いものというイメージ。この境界線は享受されるだけものではなく、各々に使ってみて、感じて面白がっていいものなのか?と思考を反復させていた私に秋元さんが「一つの例だけど、工芸の汚れは愛着。デザインは汚いと感じるとこが違いかもね。」とおっしゃった。

デザインは、傷ついたり汚れたりすると価値が激減したように思える。だけど工芸は「味」になる。この説明に大変しっくりきた。人の温もり?人間味を感じるとでもいうのか。不思議な感覚だけど、これはきっと忘れてはいけない気持ちなのだと感じた。

さて、では・・・アートはどうなのだろう?

世界に通じる金沢・伝統工芸の現代アート。

秋元さんが館長に就任されたのは2007年4月。それから、新しい時代の伝統工芸を日本、そして世界に向けて発信してこられた。

つい先日、大盛況にて会期終了した第3回世界工芸トリエンナーレのエキシビションもこの発信の一つである。こちらは第1回目から秋元さんが監修をされている。「KOGEI」という工芸をローマ字にした言葉も生まれた。

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ーー秋元さん:遠い昔から、工芸として伝わった素材と技法が持ってる良さは人間にはちゃんと、合ってんだ。その土地で生まれ、人が無理せず向き合ってきたものには結局、勝てない。工芸は本当に、素晴らしいと思っているよ。

ここ数年、その技術や古典的な技法を保ちつつ、個性や表現が加味された今の時代ならではの「自由」「個性的」な現代工芸を生み出すアーティスト達が増えてきた。工芸の核を残したまま、アニメやトレンド、現代アートと対応して進化していっている事が面白い。

工芸は例えると、集団性が強く農業に近い部分がある。新しい形を作っているアーティストは独立独歩の世界観を持っている方が多いと感じる。それがアート化し進化した「KOGEI」だ。

そして、伝え方が大切。

現代アートにしろ、何にしろ、今新しい繋がり方を模索してる段階かと思う。マスメディアではない信頼できる情報を発信する場所があればいいのではないかな?

そして、伝え方は、もっと五感を刺激する使い方や立体的に描かないとイメージがない。物(作品)との距離を遠くするのではなく、体験したり楽しみながら知る機会を生み出していくこと。

収まりが合ったり、繋がりのルーツがあれば、これからの伝統工芸はきっともっと面白くなっていく。利点と潜在ターゲットがはまれば、きっと暮らしの中にアートを取り入れた豊かな暮らしになっていくのではないかと感じている。

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ーー取材を終え、記事の公開日までの間で、この3月末で秋元さんが館長を退任される発表があった。
光栄なことに追記として、金沢の10年の振り返りと「KOGEI」の未来について言葉を頂戴した。

 


「金沢で行った「工芸の現代化」という取り組み 

金沢の工芸といえば、江戸時代に隆盛を極めた伝統工芸が頭に浮かぶ。

加賀蒔絵、加賀象嵌、大樋焼、九谷焼など、数は20を超える。古九谷は今では伊万里焼になっているが、幕末から明治にかけて、吉田屋を初め、いくつも九谷の窯が起こり、今に続いている。近隣まで視野に入れれば、北陸の工芸は多種多様で、京都とも東京とも違う独特の保守性を保っている。

一方で、私が試みてきたのは工芸の現代化ということである。私が席を置いていた金沢21世紀美術館を主要舞台にした。金沢21世紀美術館が世界の最先端の現代美術を扱う場所であったこともあり、「工芸の現代化」という取り組みはインパクトがあった。方向はふたつある。

ひとつは、「工芸の現代美術化(アート化)」である。

もうひとつは「工芸のデザイン化」である。

「工芸の現代美術化(アート化)」は結構取り組んだ。これはなにも無理矢理にそうしようとしたわけではない。むしろ現代美術として見たほうがスッキリする工芸がいつくもあったので紹介したのである。

これが2012年に開催された「工芸未来派」展であり、その後、ニューヨークのアート&デザイン・ミュージアムへと巡回した。それに同時に「金沢・世界工芸トリエンナーレ」という国際展を計三回実施した。二回目の一部が台湾で展覧会として実現した。

この間、韓国やニュージーランドなどの工芸の国際会議やレクチャーに招聘され、現代美術化する工芸について話した。

「工芸未来派」を紹介する書籍も出版した。ずいぶんと短い間に色々やった。

もうひとつは、「工芸のデザイン化」である。

こちらはまだ始まったばかりだ。というかほとんど手がつけられなかった。自分が館長に在籍中、ギリギリに出来たのが、深澤直人さんに監修を依頼した「工芸とデザインの境目」展である。

生活の中で使用する工芸について、「工芸のデザイン化」という視点から再構築することは重要なテーマである。こちらにも力を入れていかなければいけない。

さて、気がつけば工芸の様子はずいぶんと変化してきた。

自分が関わっているから余計にそう思うのかもしれないが、ブームのような気もする。

そんな時期に工芸に関われて幸せである。

でもさらに面白くなるのはこれからのような気がしている。まだまだ目が離せない


秋元さんが10年という長い年月で、立ち上げ、発信してきた新しい「工芸」のカタチ。デザインとしての表現、そして
アートとして、進化した工芸の姿は、現代に生きる人たちの「」のようだ。古くからの知恵や技術と、今の時代の感性の掛け合わせから生まれる作品はこの先の未来では、誰にも真似できない価値になる。

取材中に目に止まった美術館の恒久展示作品、ヤン・ファーブル作の「雲を測る男」

「自分のモノサシを掲げ、頭の上に浮いてる雲(創造性)を測ろう。」そんなメッセージをくれた様に思えた。
表現することを忘れてしまいがちな日々の中で、あなたは何を創造しますか??

この日の金沢はグレースカイ。この空が私はとても、好きになった。

ぜひ、金沢21世紀美術館へ。

 

kikite & kakite : kakiuchi naomi / photo by oku yuji(クレジットが入っているものを除く全て)


秋元雄史

金沢21世紀美術館館長/東京藝術大学大学美術館館長/東京藝術大学大学美術館教授
1955年東京都生まれ。東京芸術大学美術学部絵画科卒業。
1991年から2004年6月まで、ベネッセコーポレーションに勤務。美術館の運営責任者として国吉康雄美術館、ベネッセアートサイト直島の企画、運営に携わる。ベネッセアートサイト直島では、1997年から2002年まで直島・家プロジェクト(第一期)を担当。主な展覧会は、「直島スタンダード」展、「直島スタンダード2」展など、街中の民家、空家、路上など直島全体を会場とした屋外型美術展の開催。 1992年から2004年までベネッセアートサイト直島、チーフキュレーター。2004年から2006年12月まで地中美術館館長/公益財団法人直島福武美術館財団常務理事、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクター。
2007年4月から金沢21世紀美術館館長。金沢21世紀美術館では、「金沢アートプラットホーム2008」で金沢の街を舞台にプロジェクト型展覧会の開催。2010年に「第1回 金沢・世界工芸トリエンナーレ」、2013年に「第2回 金沢・世界工芸トリエンナーレ」のディレクターとして、新しい時代の工芸を世界に向けて発信。 2013年「The Co-Curator of Taiwan・Japan-Contemporary Craft and Design/Craft in Flux 2nd International Triennale of Kougei in Kanazawa Exchange Exhibition in Taiwan」(国立台湾工芸研究所 台湾)、International Committee of the 2013 Gyeonggi International Ceramic Biennale(利川セラピア・利川世界陶磁センター他 京幾道 韓国)。2012年「工芸未来派」、2013年「柿沼康二 書の道 “ぱーっ”」、2014年「橋本雅也 間(あわい)なるもの」2016年「井上有一」を企画(4展とも金沢21世紀美術館)2013年4月~2015年3月東京藝術大学客員教授、2013年4月〜秋田公立美術大学客員教授、2007年4月〜金沢美術工芸大学理事/経営審議委員/20169月から女子美術大学芸術学部特別招聘教授も務める。

(記事公開日 2017年2月時点の略歴を明記させていただいております。)


工芸とデザインの境目

■期間:2016年10月8日(土) 〜2017年3月20日(月・祝)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)

■会場:金沢21世紀美術館
展示室1-6休場日:月曜日

■本展観覧券

一般=1,000円(800円)
大学生=800円(600円)
小中高生=400円(300円)
65歳以上の方=800円



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