あじわうことの進化。そして、未来への扉を開く【アーティスト 諏訪 綾子】

PLART編集部 2017.7.15
TOPICS

7月15日号

 

経験したことのない新しい仕事に挑戦する・・・

行ったことのない初めての場所を訪れる・・・

食べたことのないものを口に運ぶ・・・

自分の中にある「好奇心」が背中を押したとき、私たちは「未知」と触れることができる。好奇心はいつだって、私たちの世界を広げてくれる。

「food creation(フードクリエイション)」を主宰する諏訪綾子さんは、「食」をテーマに活動するアーティストだ。

 

2008年に金沢21 世紀美術館で初の個展「食欲のデザイン展 感覚であじわう感情のテイスト」を開催し、同時期に伊勢丹新宿本店の食品フロアにて同コンセプトのパフォーマンスを実施したことを皮切りに、これまで日本のみならず世界からも食とアートの各領域から高い評価を得ている。

彼女が表現する食は、グルメでも栄養源でもない。

食を「アート」や「体験のデザイン」、そして「感覚的なコミュニケーション」として捉える新しい世界観だ。

 

 

五感であじわう食体験は、人間本来の好奇心を呼び覚ます

「今の時代は当たり前のように食べものが用意されてます。特に都市で生活している人は、そのことに疑問を持つこともない。それが食べられるのかどうか、食べても大丈夫なのか、あるいはそれが死に至るほどの猛毒かどうかなんて。そんなことを考えずに、私たちは「食べもの」という認識だけで疑わずに口に入れてしまう。人は一体、日々どれくらい真剣に、食べることに向き合えているのでしょうか。

流通や情報テクノロジーが発展し、安全でおいしい食べ物が当たり前に手に入るようになった現代でそれと引き換えに忘れてしまったものは、欲望や感覚のままに食べることに向き合う、食に対する「好奇心」です」

諏訪さんの活動のひとつ「ゲリラレストラン」は、国内外の意外な場所に突然あらわれ、食の体験を提供する作品だ。

ここには、フォークやナイフなどの普段食事で使用するカトラリー類は見当たらない。

「後をひく悔しさとさらに怒りさえもこみ上げるテイスト」や「恥ずかしさと喜びがゆっくりと快感に変わるテイスト」などの感情を表したメニューが並び、それらの食べものがが何でできているのかは最後まで知らされない。

photo: Hiroshi Iwasaki (Numero Tokyo No.17) 「後をひく悔しさとさらに怒りさえもこみ上げるテイスト」

photo: Hiroshi Iwasaki (Numero Tokyo No.17) 「隠しきれない嬉しさのテイスト」

photo: Hiroshi Iwasaki (Numero Tokyo No.17) 「幸せのテイスト 後から押し寄せる切なさのテイスト」

 

人は食べものを目の前にすると、それまでの経験や知識から、そのテイストの50%は、食べる前に想像であじわうことができてしまうと諏訪さんは話す。

ゲリラレストランでは、客は手づかみで、手触りを確かめる。匂いをかぎ、好奇心のおもむくままにそっと慎重に口に運び、これは一体何なのかと目をつぶり、集中して全身全霊であじわう

ゲリラレストランが提供するのは普通のレストランのような「想像できるおいしい料理」ではなく、「五感であじわう」という昔の人間が当たり前に行っていた、忘れさられつつある、食への好奇心そのものをあじわう「体験」だ。

2014 年10 月
金沢21 世紀美術館で開催した展覧会・パフォーマンス
「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム」
Photo : Hiraku Ikeda

 

 

2015年、香港で開催された「ジャーニーオンザテーブル」は、フードクリエイションが2011年から東京・シンガポール・台北・フランスと続けている実験的ディナー。冒頭、妖精達に魔法にかけられ、羽根を手にしたゲスト達は、蝶のように空を舞う感覚で、旅をするような食体験をした。

2015年9月

香港で行われた「Journey on the Table ジャーニーオンザテーブル」。

Photo: Clé de Peau Beauté / Chef : Vicky Lau

 

移り変わる自然情景のプロジェクションマッピングに加え、音響、特殊効果、幻想的なパフォーマンスと連動した総合的な食体験。ゲストは五感をフルに活用しながらフルコースのディナーを通して好奇心をあじわう。

 

 

 

すべての「好奇心」が、作品づくりに通じる

 

諏訪さんは、石川県能登半島の出身。

山も海もすぐそばにある恵まれた美しい自然と、残酷な自然を見つめて育ったという。


「海に行けば真っ青なクラゲや魚の死骸があったり、山へ行けば木々や動物の死骸、花粉など、そういうものに好奇心を掻き立てられ、それらを食材に見立ててお料理を作り、友達に振る舞う遊びをしていました。

子どものときって、美しいものだけでなく、何かの死骸のような気持ち悪いものでも、怖くてグロテスクなんだけれども見入ってしまう。その頃の好奇心と美意識が今も私の中にそのままあるんです

 

また諏訪さんは人間がなにかを「食べる」「あじわう」という行為そのものから作品のインスピレーションを受ける事があるという。「人が何かを食べている」最中は、普段スキがなかったり素の姿を見せない人も無意識に、無防備になる。

 

「食べることって、意識しないと全く気にしないくらい当たり前の行為です。だからこそ、なにを選んで食べるか、どんな表情でどんな食べ方をするかで、その人の食への向き合い方や生き方までもが見えてきます。見てはいけない内側を覗き見るような感じです


彼女が学生の頃、「食」をテーマに一つの作品を制作したことがあるそうだ。それは「人」も食材に見立てた作品だったそう。

人への興味を追求し、自然や、周りから常にインスピレーションを受け、考えもよらない発想の枠を越えていく諏訪さんのこれからについて伺った。

 

 

五感を通した新たな体験づくり

 

「以前、VR(バーチャルリアリティ)関係のトークイベントに登壇者として招いて頂いたのですが、はじめは何故自分が?と思いました。

主催者の方に『諏訪さんの活動はVRだ。そこにない「想像であじわう」体験を開発している』と言われ納得しました。

今後もあじわう体験を通して人間の本能的な感覚や欲望をかき立てることを追求していきたいと思っています。五感はもちろんですが、内蔵感覚のようなより深い内側であじわう感覚、そしてVRのように無限の想像であじわう体験を考えています。そしてその体験で私たちがどう進化していくのかを見てみたいという好奇心があります

 

諏訪さんは作品を味わい体験する人たちの感覚や記憶を創り出している。

立ち止まっていけない、と耳打ちされる様だ。

それは古来からのDNAに染み付いた私たちの進化する一つの手段、「好奇心」

 

今後も彼女は進化の体験を通じて、私たちに次の世界を教えてくれる。

 

kakite :古性 のち /photo by BrightLogg,Inc./EDIT by PLART & BrightLogg,Inc.


諏訪 綾子|Ayako Suwa
アーティスト

石川県生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、2006年よりfood creationの活動を開始、主宰を務める。2008年に金沢21世紀美術館で初の個展「食欲のデザイン展 感覚であじわう感情のテイスト」を開催。東京・福岡・シンガポール・パリ・香港・台北・ベルリン・バルセロナなど国内外で、パフォーマンス「ゲリラレストラン」やディナーエクスペリエンス「Journey on the table」、フードインスタレーションなどを発表している。2014-15年には金沢21世紀美術館 開館10周年記念展覧会「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム」を、東京大学総合研究博物館とともに開催。
www.foodcreation.jp



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