自然を活かし、自然へ還す。【華道家・辻雄貴】

PLART編集部 2017.4.15
TOPICS

4月15日号

華道家・辻雄貴さんが手がける「循環型アート」は、野山に生えている植物を素材として用いる。そして、作品として新たなきらめきを与えられた植物たちは、決して廃棄されることなくもう一度自然のなかに還される。

まさに生命を循環させる辻さんの作品は繊細な美とダイナミックな生命力にあふれ、もはや「いけばな」という範疇には収まらない。それは、辻さんのルーツが建築学にあるからだろう。生命の循環を、建築といけばなの融合によってアートへと昇華させた辻さんの自然に対する思いに迫る。

photo by Sekiya Kozo

自然の”ゆがみ”や”くぼみ”には、人間が決して生み出せない美がある

辻さんがもともと建築学を志した背景には自然の造形美への憧れがある。幼いころから野山に出かけては草花や昆虫と触れ合っていた辻さんは、人間の手では作り出せない”ゆがみ”や”くぼみ”に美しさを感じたという。そして、自然にインスピレーションを受けた建築様式「アール・ヌーヴォー(※1)」と出会い、西洋建築の研究の道に進む。そんな辻さんがいけばなに惹かれたきっかけは、卒業設計の研究の一環として、西洋と日本の美意識の比較のために訪れた京都の重森三玲庭園美術館だった。

 (※1)アール・ヌーヴォー・・・「新しい芸術」を意味し、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に広がった美術運動。

「重森三玲が手がけた枯山水は、『アール・ヌーヴォー』の代表的な建築家であるガウディのようなダイナミズムを表現しているように感じました」

重森三玲は昭和初期の作庭家で、いけばなや茶道の美学に大きな影響を受けている。とくにいけばなに関しては、前衛芸術運動の機運に乗り、いけばな界の革新を訴えた「新興いけばな宣言(※2)」の提唱者のひとりでもある。

(※2) 新興いけばな宣言・・・重森三玲、勅使河原蒼風、中山文甫たちがいけばなの革新を世に提唱したもの

「重森三玲をはじめとする60年代のアーティストは、日本の伝統的な美学を自身の作品に取り入れる試みを多く行っていました。それを知ったとき、建築にいけばなの要素を取り入れたらおもしろいんじゃないかと思ったんです」

そこで、重森三玲とともに「新興いけばな宣言」を唱えた勅使河原蒼風(てしがはら そうふう)が興した草月流のいけばな作家・竹中麗湖氏に師事。本格的にいけばなの世界に足を踏み入れることになった。

ここで疑問に思うのが、建築に取り入れるためにはじめたいけばなが、いまでは主従関係が逆転し、いけばなこそが辻さんのライフワークになっているのはなぜかということだ。

「師匠の推薦でいけばな関連の書籍を共著したり、『植物デザイン』という雑誌で『人と建築と植物と』という連載を持ったりするうちに、いけばなにかけるモチベーションの方が高くなっていって。それと、やっぱり自然を間近に感じながら仕事ができることがとても楽しかったんです

自然に息吹を取り戻す。それが「循環型アート」の目指すところ

辻さんの代名詞でもある「循環型アート」を始めるきっかけとなったのが、フランスで行われた世阿弥(※3)誕生650周年を記念した能舞台の舞台美術を手掛けることだった。辻さんは東京の事務所を引き払い地元の静岡に戻った。

初めての大舞台のために必要な場所へ。

(※3) 世阿弥・・・室町時代初期の猿楽師

「能舞台に使う素材を探すために少しでも自然に近い場所に生活の拠点を移したかった。そのなかで、荒れ放題になった竹林が山をどんどん荒廃させているという事実を知りました。竹は根を張る力が強いので、増えすぎると山の栄養を吸い取ってほかの植物が育たなくなるんです。そこで、地元の林業や里山や保全に携わる人たちの協力のもと竹を伐採して、能舞台の素材にすることにしました

photo by yukitsuji.com

竹の伐採の過程で、林業が抱える課題や里山保全の活動について少しずつ知っていった辻さんは「自然循環農法」という取り組みと出会う。それが、能舞台に使用した竹を竹チップにして野山に還すというアイデアにつながった。

photo by yukitsuji.com

「『自然循環農法』という考え方を知ったとき、作品に使った素材を自然に還すことは至極当たり前のことのように感じたんです。この経験から、伝統芸能を通して環境を守る活動ができるんじゃないかと考えるようになりました。日本の伝統芸能である茶道や華道や能は、豊かな自然からインスピレーションを受けて発展してきたものです。自然を愛でながら文化を培ってきた先人たちのことを思うと、もう一度自然に息吹を与えなければならないという気持ちになりました

いけばなの本質は、死せるものを生かすことにあるのかもしれない

辻さんの「循環型アート」には、自然環境を守るという側面の「循環」と同時に、土から引き抜かれて死んでしまった植物を「いける」ことで再生させるという「循環」がある。そこにはアニミズム的な思想や価値観が影響しているように思う。アニミズムとは、自然界にあるものすべてに精霊が宿るという日本古来の信仰のひとつだ。

「アニミズムのなかでは生と死は常に隣り合わせです。信仰のひとつとして、肉体が死んでも霊魂は生きているという考えがあり、死者が蘇生することを信じていたんです。これはいけばなの『死んでいるものを生きているように見せる』というところに通じています。いけばなは、人間の創造力によって自然に新たな命を与えることができるんです」

辻さんの話を伺っていると「いけばな」という言葉は本来、「花を生ける」という意味ではなく「花を活かす」という意味なのではないかと感じた。辻さんの作品は表現された造形そのものではなく、そこから人間の創造力によって無限に広がる「余白」の世界にこそ価値があるのだろう。

photo by yukitsuji.com


4月上旬、東京・靖国神社で執り行われた「夜桜能」の舞台「西行桜」の制作物を辻さんが手がけられた。

120年余の伝統を有し、東京最古といわれる靖国神社 能楽堂で年に3日間だけの舞台だ。今演目には人間国宝の梅若玄祥(うめわかげんしょう)氏、狂言・野村万作氏・野村萬斎氏の錚々たる名が連なる。

開演前の緊張感漂う空気の中、その袖で文字通り舞台に花を添えるため、桜を生ける辻さんを撮影させていただいた。

今朝方、山から採ってたばかりの桜を剪定する辻さん。

どうやって花びらを開かすのですか?と聞くと「この日に合わせて温度管理して調整します。だけど、本当にすぐに咲かせたい時は日本酒を根に染み込ませます」

生の花を使用したのは、この夜桜能、初めてのことだったそうだ。

辻さんの作品は能「西行桜」にて、老桜の精と一緒に舞台へ現れた。

photo by yukitsuji.com

小鼓の音が桜の舞う闇と篝火(かがりび)の空間に響くたび、自分の鼓動と共鳴し、とても懐かしい不思議な感覚に陥る。月夜の下、目の前の美しい情景に今の時代がいつなのか、そして、これは夢なのか現実なのかも、一瞬、分からなくなる。一夜だけの、時空の旅となった。

photo by yukitsuji.com

辻さんは、作品を作るとき抱いている思いについてこう語った。

「自分が何かをゼロから『作ろう』なんておこがましい考えは持っていません。自然が持っている生命力を自分が”器”になることでアウトプットするだけ。僕の仕事はゼロから何かを生み出すことではなく、自然がもともと持っている輝きを引き出すことなんです。自然に対しては常に謙虚な気持ちで対峙しています」

自然の生命力に遺伝子がざわざわと騒ぎ立つ

古来から受け継がれてきたアニミズム的な思想や価値観は、今なお日本人のDNAに刻まれているはずだ。それが日本人特有の自然に対する畏怖や敬意につながっているのだと思う。

辻さんの作品と対峙すると、自分のなかの遺伝子がざわざわと騒ぎ立つような感覚に陥る。だからこそ「自然を活かしていくこと」、それがどれだけ大切なことなのか、日々声高に叫ばれるどんな環境保全の言葉よりもはるかに大きな衝撃をもって心に突き刺さる。

 


kakite : kondo sena (夜桜能部分:kakiuchi naomi)/
photo by Hayashi Yuba (クレジットがないもの全て)/ EDIT by:PLART & BrightLogg,Inc.

photo by Fadi Kheir

辻 雄貴(つじ ゆうき)華道家

1983年 静岡県出身。工学院大学大学院工学研究科建築学専攻 修士課程 修了。辻雄貴空間研究所 主宰。いけばな作家、竹中麗湖氏に師事。建築という土台を持ちながら追求する「いけばな」は、既存の枠組みを超えて、建築デザイン、舞台美術、彫刻、プロダクトデザインなど、独自の空間芸術として演出される。人と建築と植物。三つの関係性を考え、植物の生命力と人間の創造力を融合させた空間表現には他に類がない。2013年、フランスにて「世阿弥生誕650年 観阿弥生誕680年記念 フェール城能公演」の舞台美術を手掛ける。2015年静岡とフランス、カンヌとの文化交流事「シズオカ×カンヌ×映画祭」では、アーティスティックディレクターに就任。近年は、国内外問わず様々なブランドとアートワークを発表。世界を舞台に、日本の自然観・美意識を表現している。2016年、ニューヨーク カーネギーホール主催公演にていけばなを披露。カーネギーホール史上初の華道家となる。

<主なWORKS>

ニューヨーク ・カーネギーホールジャパンノータブルズ、アンニュアルイベント献花パフォーマンス
坂本龍一×吉永小百合 朗読会@大阪フェスティバルホール 献花パフォーマンス
バング&オルフセンジャパン90th ムービーのクリエイティブディレクション
ユニリーバ・ジャパン CM「CLEAR」のためのアートワーク
静岡×カンヌ映画祭 登呂遺跡 会場構成の空間ディレクション
café de perle GINZA店舗の基本設計、デザインディレクション (2013年)
世阿弥生誕650年 観阿弥生誕680年記念 フェール城能公演 舞台美術 (2013年)
静岡新聞 連載「花と建築」執筆(2013年)

共著

Sense of solid フラワーアーティストの花と造形」(草土出版 2009年)
Across the Universe フラワーアーティストの花と造形 international」(草土出版 2011年)
Shine a Light フラワーアーティストの花と造形 international」(草土出版 2012年)

公式HP  http://yukitsuji.com/
公式facebook https://www.facebook.com/tsuji.ikebana/
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