「ここにしかない」から生まれた太田市美術館・図書館

PLART編集部 2017.4.15
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4月15日号

群馬県の南東部に位置する人口22万人の太田市。自動車製造などが主な産業となる「ものづくり」の市だ。2017年4月26日、太田駅北口を出て徒歩30秒の場所に美術館・図書館がグランドオープンとなった。建築的な特徴は「5つのボックス」から出来上がっている。手がけられたのは伊東豊雄建築事務所出身の建築家・平田晃久さん。

太田市に住む人達が集い、創造する新しい公共建築

平田晃久建築設計事務所 平田晃久氏

平田晃久さんから説明を受けつつ館内ツアーをしていただいた。印象的だった言葉を下記に紹介する。

◯結び目のようなイメージ
「建物の東、南、西面に3つの入り口があり、様々な方向から入り、通り抜けることができます。3階建てですが、全体が緩やかなスロープによって連続的に結ばれているので、街の中を歩くように自然に上の階に至ることができます。すべての場所が街とつながっています。人々は街からやってきて、中央の場所を通り、また街へと帰っていきます。人の動線が結び目になるような建築です」

プロジェクトには市民の方々、行政の方々が大きく関わっており、何度もワークショップを重ね、皆んなで創る公共施設になっている。人とのつながりが、出来た結び目が街の外にも広がっていくのであろう。

◯21世紀の丘をつくる

太田市には東日本最大の古墳「太田天神山古墳」があり、他にも丘が点在している。そんな土地の特徴から屋上に芝生を引き、太田市駅前に「21世紀の丘」を作るイメージであるそうだ。

◯生態系のような建築

植栽にされた植物たちは太田市に自生しているメンテナンスのいらない植物だ。植物と人も同じように多種多様な人達が心地よい時間を過ごす、人を巻き込んで創りあげる建築になる。

産業も、自然も、食も、共存する空間

  

館内では至るところに目を引く素敵なインテリアが配置されている。

その一つに幾何学模様の椅子がある。ものづくり集団「株式会社エーアイラボオオタ」によるものだ。市内の「太田機械金属工業協同組合」に所属するメンバーのうち、もともとアートや家具、建築に興味があった仲間で結成された。

足の部分には「ジェラルミン」という軽いアルミ素材を使用している。

絵本コーナーにあるこちらの椅子は通称「カメ」

その他にも、3階レファレンスルームのランプシェードや展示室の脚にも彼らの「ものづくり」が使用されている。

また太田市の特徴である群馬の赤城山から吹く赤城おろし。この強い風を活した窓を設置し、風をほどよく取り込む事で館内の空気を循環させる自然エネルギーのエコシステムだ。

photo by kakiuchi naomi

建物が、産業や自然と共存している。無理をする訳でなく、「ここにあるもの」を活かすこと。

また駅を利用し訪れる来館者を一番に迎えてくれるのは地元で人気のコーヒーショップ「BLACKSMITH COFFEE」が手掛ける「KITANO SMITH COFFEE」 地産地消をモットーに食材は自家製と太田産にこだわった。

街の土、街の風、街の風景 未来へのメッセージ。

開館記念展 未来への狼火 入り口

美術館の開館記念展のタイトルは「未来への狼火(のろし)」

このテーマは地元の詩人・清⽔房之丞の言葉を手がかりにキュレーションされた。

郷土で詩を書くことに心を傾けた清水房之丞の仕事は、この風土で生きることへの強い誇りを感じさせる。
「風土の発見」「創造の遺伝⼦」「未来への狼火」をキーワードに、こうした歴史的風土のなかで生まれたこの展示には9名の作家が参加している。

詩集『霜害警報』(1930年)の一文を直に壁へ描いた作品。

アーティスト 淺井祐介さんの作品は土を使用した「泥絵」。太田市の土を水だけで溶き、壁一面に描いている。一部を公開制作として、太田市の住人たちと一緒に創り上げた。

『言葉の先っぽで風と土が踊っている』淺井祐介

シンガーソングライターの前野健太さんは街に訪れ、
肌で感じた風を詩にした作品『金山の物見台から』

アーティスト・藤原泰佑さんは、実際街を歩き印象に残った
建物や看板がフォーカスされた作品『太田市街図』を発表している。

3階の展示室では、映像作家の林勇気さんの作品を観る事が出来る。

自ら撮影した写真のほか、市民から提供された写真やインタビューも素材に、「未来」をテーマにした映像作品だ。

『there』林勇気

砂のように粒になった写真というツールで残されたそれぞれの過去が舞い上がる。

ここに住む人たちが届けたい、残したいメッセージを未来へ狼火をあげるようだ。

地方のどこの駅前へ行っても、同じような建物が並んでいる。少しでも残った商店街はとても寂しい空気を漂わせ、自分の故郷でなくても随分と悲しい気持ちになる。太田市も同様の道を辿っていたそうだ。今回の太田市美術館・図書館の誕生によって「ここにしかない価値」が生まれ、新しい太田市を創り出していくのだろう。

自然と、人と、共存し、街の個性を取り戻す。そんな時代を日本は迎えているのだと感じることが出来た。

 

kakite : kakiuchi naomi / photo by Otaki Hiroyuki


 

太田市美術館・図書館
住所 〒373-0026 群馬県太田市東本町16番地30
TEL 0276-55-3036
開館時間 10:00~20:00(日曜・祝日は18:00まで)
※企画展の観覧は午後6時まで(入場は午後5時30分まで)
休館日 月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)
http://www.artmuseumlibraryota.jp/



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