「みんなで仲良く 進む」【上出長右衛門窯・上出 惠悟】

PLART編集部 2017.2.15
TOPICS

2月15日号

上出 惠悟さんは、人に対して一切壁を感じさせない不思議な魅力の持ち主。彼が作りだす工芸、そして工房を取材させてもらった。

金沢市から車で走ること、1時間。能美市の住宅地の中に突如現れる「九谷焼窯元・上出長右衛門窯」突如という表現はここに初めて来た筆者だから感じるだけであって、「上出長右衛門窯」は創業から130年という長い年月が経っている。

九谷焼窯元・上出長右衛門窯

石川県の代表的な伝統工芸である九谷焼の窯元。
主に美術工芸品、割烹食器、日用食器を製造、販売。上出長右エ門窯は明治十二年、石川県能美郡寺井村(現石川県能美市寺井町)にて創業。以来百三十年、昔ながらの手仕事で日々の食器から茶陶まで一点一線丹誠込めて伝統を現代まで守り続けている。
彩り鮮やかな上絵付けと深い発色の染付け、そして何より丈夫で美しい生地が長右衛門窯の特長である。(公式サイトより引用)


上出さんは、東京藝術大学在学中、伝統工芸の技法でバナナを象った九谷焼の作品『甘蕉 房 色絵梅文』を制作し、現代アート業界で高い評価を受けた。2006年に同校卒業後、家業である石川県の窯元へ戻られ、現在は九谷焼窯元上出長右衛門窯の六代目にあたる。

窯元のクリエイティブディレクター、デザイナーとして従事している。また個人としては伝統工芸の高い技術を用いた作品を発表するアーティストとしても活躍されている。

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東京藝術大学の卒業制作で発表した
『甘蕉 房 色絵梅文』は その当時、九谷焼の現場に
身を投じ素材と対峙する中で、バナナをモチーフに選んだそうだ。

上出さんが実家に戻り、まずやったこと。それは、「見せること・伝えること」だった。

なぜ、実家に戻ろうと思ったんですか?と尋ねると、

ーー上出さん:いろんな理由があるけど、一つはやっぱり「日本の手仕事がなくなっていくのは、もったいない」と思ったからです。

戻ってきた時は九谷焼全体に閉塞感があって、自分が身を投じて食べていけるのかという不安はありました。でも、やってない事がまだまだあると感じていて、とにかく九谷焼の間口を広げたいと思いましたね。

それは、僕が新しいものを作るというより、これだけ物があるし、知ってもらうツール(リーフレットやホームページ)を作成し紹介すること。伝統工芸の「古いもの」というフィルターを取り払うような見せ方や伝え方を意識しました。

九谷焼と言えるものも多様でいろんな可能性を秘めていると思うので、届け方や形をその時その時で変えています。一つのことを突き詰めるのももちろんカッコイイんですけど、僕自身いろんな方向から物を考えるような、そういう性質があるのだと思います。でも、経営の計画や戦略はあんまり考えてなくて、随分感覚的にやってます。笑


 例えば・・・スペイン人デザイナー、ハイメ・アジョンと組んで食器シリーズを発表するなど、九谷焼の新しい可能性を追求している。

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取材の翌日、50年使用している窯が新年明けて、初の火入れの日であり記念の初窯祭が執り行われるとの事で急遽、参加させてもらった。奈良県から上出さんのお知り合いの神主さんが来られ、朝5時から始まった祈祷儀式。

このタイミングに居合わせ、神聖な場に参加させてもらえたこと事がとても感慨深かった。

祈祷中、昨日上出さんに聞いた言葉から窯がここで見てきたであろう50年を想像してみようと試みた。浮かんでは消えるイメージにただ、上出長右衛門窯のこれからを一緒に祈った。祈祷後には、新年初の火入れが行われた。

photo by kakiuchi naomi

photo by kakiuchi naomi

 

初窯祭が終わり、集合写真を撮りみんなでお菓子を食べつつ談笑をした。

上出さんに今後の目標は?と聞くと、「みんなで仲良くしたい。」と答えてくれた。

ーー上出さん:「徐々に仲間が増えてきたので、仲良くしたいな。と思ってます。藝大の同級生が2人、東京から移住してきたので、みんなで一緒に頑張りたいな。と思って。」

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photo by kakiuchi naomi

作品はもちろん、彼の周りには、彼の考えや魅力に引き寄せられた、これまた魅力的な人が集まってる。
古くからの伝統工芸を守りつつ、新しいカタチを作る上出長右衛門窯は「みんなで、仲良く進む」 

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その言葉の意味が、とても実直で、純粋で、心に残った。

 

kikite & kakite : kakiuchi naomi / photo by oku yuji(クレジットが入っている写真を除くすべて)


【個展情報】
上出惠悟 わすればなん Forgotten banáns

【期間】2017年3月22日(水)〜4月10日(月)
【場所】東京日本橋髙島屋 6階 美術画廊Ⅹ (東京都中央区日本橋2-4-1)/Tel 03- 3211-4111(代)
【時間】午前10時30分~午後7時30分
【作家によるギャラリートーク】 「わすればなし」4月1日(土)午後3時~


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上出 惠悟(かみで けいご)

1981年石川県生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。合同会社上出瓷藝代表。
家業である九谷焼窯元上出長右衛門窯の六代目にあたる。窯元のクリエイティブディレクター、デザイナーとして従事。東洋で始まった磁器の歴史を舞台にしながら軽妙な切り口で現代に通じる九谷焼の食器を提案し、各地での展覧会開催や、東京の株式会社丸若屋と窯元が手を組み製作した髑髏のお菓子壺のシリーズ、スペイン人デザイナーJAIME HAYON(ハイメ・アジョン)を起用した食器シリーズのディレクション等を行う。幅広い九谷焼の可能性を模索する傍ら、美術家としても活動し、磁器を素材にした「甘蕉」、「栄螺」などが代表作。主な個展に「熊居樹孔」 (Yoshimi Arts/大阪/2016)、「硯海の貝」 (Yoshimi Arts/大阪/2014)、「楽園創造(パラダイス)-芸術と日常の新地平-vol.3 上出惠悟」 (gallery αM/東京/2013)。

九谷焼窯元 上出長右衛門窯
http://www.choemon.com/


 



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