進化し続ける過程が、振り返れば伝統になる【浅草 飴細工アメシン/手塚工藝株式会社 代表 手塚新理】

PLART編集部 2018.2.15
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2月15日号

 

はさみ一本で、何をする?

そう聞かれたとしても、「何かを切る」というふつうの用途以外、なかなか浮かばない。

でもそのたった一本のはさみで、一見ただの透明なかたまりから、今にも動き出しそうな躍動感あふれる金魚をつくることだって、できるのだ。

それができる人が、今目の前にいる。飴細工の職人であり、浅草に工房と東京スカイツリーソラマチに店舗をかまえる「浅草飴細工 アメシン」の創業者・手塚新理(てづか しんり。以下手塚さん)だ。

手塚さんは、90度に熱した飴を素手で取り出し、右手に持ったはさみ一本で、飴を切り落とすことなく丁寧に、でも素早い手つきで金魚の形に変えていく。その間、たったの5分。

飴細工は江戸時代から続く伝統工芸で、干支をはじめとした動物のモチーフが基本だ。通常の飴細工は白色だが、「アメシン」のものは透明で、そんなみずみずしい雰囲気に合う金魚など、水の動物をかたどったものが特徴的である。

完成度の高い金魚の飴細工を見るにつけ、さぞ長くつくり続けてきたのかと想像する。だが手塚さんは現在28歳。そもそも飴細工を社会に出た当初からやっていたわけではなく、以前は花火師だったという。

師匠がいない飴細工業界に飛び込み、独学で一から学び、飴細工一本で「アメシン」を大きくしてきた。

一見、仕事にするには大変なように見える飴細工に惹かれたわけが、そしてこれまでの経験を一つ一つ淡々と、でも実績と技術に裏付けられた説得力のある言葉で語る、手塚さんでないと達成できなかったことが知りたくなった――。

 

刺激のあるものづくりがしたかった

話を伺っている間も慣れた手つきで、次々と飴を金魚にしていく手塚さん。

子どもの頃から、ほっといたら木や粘土でものをつくったり、絵を描いたりしていた。その延長で中学卒業後は高専に進んだものの、学校は合わなかったという。

「高専は、ものづくりをする環境ではあったんですが、理論を学ぶことが多かった。自分は手を動かすことが好きだったし、もっと刺激のあることがしたいと思い、ただ単純に、『ものづくり×刺激』で考えたときに花火師が浮かんだんです(笑)」

目を見張るのは、思い立ったらすぐ実行に移す手塚さんの行動力だ。高専在学中に花火師の資格を取り、花火屋の門を叩いた。バイトから始め卒業後は正社員になったものの、1年で辞めるというめまぐるしい数年を送る。

「国内には良い花火師の方もいますが、業界の多くは、そのクオリティの高さが評価される世界ではなかったんです。花火大会でも一つ一つの玉を見ているわけではなく、たくさん上がればいいという人が多い。だから主催する自治体も、入札の際は『安くていっぱい上がる』ことを重視し、花火屋も中国から安く仕入れる。ちょうどうちの会社も次の年から中国工場をつくることになっていて、自分が『来年からそこの責任者になれ』と言われました。

このままこの世界で、こういう生き方をしていたらまずい。そう思ったら本当に気持ち悪くなり飯もまずくなって辞めたんです。『やなこった。俺は中国行かない』って(笑)」

 

教わる環境がない、だからチャンスだ

花火師を辞めてからは、何か自分にしっくりくるものづくりがないか探していたが、その過程でふと出てきたのが、飴細工だった。

「そのとき知ったというよりは、そういえば飴細工ってあったよね、と思い出して。子どものころの夏祭りかなにかで、屋台に売られていたなと。それで昔、親父に『飴細工屋になったら?』って言われたのを思い出したんです。私も忘れていたような話だったんですが、改めておもしろそうだなと思い返しました」

父の言葉が今につながり、改めて飴細工の魅力に気づく。それは、ごまかしのきかない工程と、驚くことに「今にも滅びそうな現状」だった。

「飴細工は飴が熱いうちにカタチをつくらないといけません。また、今私がこうしてつくっているように、つくる過程も飴細工を味わってもらう一貫です。だからつくる過程のごまかしが効かない。そのシンプルさが魅力的でした

とはいえ、飴細工を一から教わる環境はない。だが、手塚さんは不安になるどころか、むしろチャンスだと捉えた。

「飴細工ってみんな知っているのに、技術的にレベルが高いものがあるわけでもない。当時(今から8年前くらい)は、飴細工はテキ屋のおじさんがやっているイメージでした。

だからこそ、めちゃくちゃチャンスがある。自分がおもしろいと思った飴細工は、誰もちゃんとやっていない。本気でやったら、飴細工に対するイメージや業界の現状もひっくり返せるんじゃないか。そういった、『やったらいける』という感覚がありました」

やると決めてからは半年間家に篭って、ひたすら独学で飴をつくっていた。『飴の材料の研究分析など細かいデータをまとめるのは高専時代の勉学が役に立ちました』と笑った。

一通り細工できるようになってからは、少しずつ飴細工を披露する仕事を取っていったという。

「イベントに出店させてもらえないかと営業していましたが、最初は飴細工だけでは食っていけないので、平日の昼間はデザインの仕事、夜は配達のバイト、週末に飴細工と掛け持ちしていました。そのうち企業イベントや地域のちょっとしたお祭りに呼ばれるようになり、飴細工だけでやっていけるようになったのは、始めてから3年経ったあたりです」

その後は浅草に店舗を構え、ソラマチへの出店オファーがかかり、今では弟子を9人抱えるほどにまでになった。

 

「伝統だから残さないと」という考えは好きでない

なぜ一人で、独学で始めた飴細工という仕事をここまで大きくできたのか。その背景には、「飴細工はこうでなければいけない」という考えに囚われなかったからではないか。そう思わせられる言葉が、次々と手塚さんから紡がれる。

例えば、飴細工はその精巧な見た目から、そしてつくられる過程も展示されることから、アートだと考えることもできる。だが、手塚さんは決してその言葉にこだわったりはしない。

「そもそもアートとは何かっていう話なんですよね。元々、アートの語源には技術という意味がある。だから、本来の意味では芸術と技術にはボーダーラインってないと思うんです。飴細工も、アートでもアートじゃなくてもどっちでもよくて、受け取る側が好きに判断してくれればいい。自分としてはただ、技術の高い良いものをつくるだけです」

同じく、「飴細工は日本の伝統だから魅力的だ、評価されるべきだ」という考えもない。

「花火も飴細工も、伝統工芸だからというわけではなく、たまたま興味持ったものがそうだっただけ。でもそういった伝統のものって、何かしらやっぱりいいなという要素があるから残ってきている。

私は『伝統だから残さないといけない』というスタイルがすごく嫌いで。今でこそ伝統と言われるものも、良いものを時代に合わせて進化させたからこそ継続してきた。100年継続したものも、後ろを振り返ったときに伝統になっているわけであって、その間同じようにやっていたら途中で絶対受け入れられなくなり、どこかで滅んでいるはずです」

 

後継者を育てるために、飴細工を「憧れの仕事」にしていく

手塚さんの横で絵師さんが絵付けの工程作業中。

伝統だからという理由のみで評価されるべきではない。そう考えるからこそ、手塚さんは飴細工を商売として成り立たせることに徹底している。

飴細工のつくる工程をきちんと見せることで、子どもからお年寄りまで楽しんでもらえるようにしています。そしてその工程が魅力的だと思ってもらえるように、仕上がりの完成度も常に高めていく。そして、弟子たちをちゃんと雇用して飯を食わせる事も重点にあります」

そんな手塚さんの元には、弟子として志願する応募者が多数集まり、試験を課しているほどだ。

「伝統の世界ではよく後継者不足と言われますが、まず弟子を受け入られる体制をつくらないと話になりません。同時に、『飴職人になりたい』と思われる憧れの仕事にしていかないといけない

だから私は、常に業界のトッププレイヤーであるようにしています。その為、メディアに出たり、海外へも出向いてます。そうやって、『結果を出せば注目される存在になれるんだ』と次の世代から思われる職業にしていく。

今後の活動として新店舗や新事業を考えていますが、それも飴細工にとどまらず、今までに培った工芸のネットワークを生かして、後継者問題や世界に向けてのアプローチに取り組んでいくつもりです。

こうして、未来に向けて進化し続ける実績が、伝統になっていくんだと思います

 

はっきりとした口調で、今後について語ってくれた。

たった数分の間に見事な飴細工を生み出す1秒1秒が手塚さんの自信の一つに感じる。

そして、「伝統だ」と躊躇う事もなく、進化を続けていく過程を今まさに私たちは見ている

 

kakite:菅原沙妃/ photo by Naoki Miyashita / Edit by Naomi Kakiuchi


 

手塚 新理/Shinri Tezuka

飴細工師:手塚新理

手塚工藝株式会社 代表。日本随一の技術力を誇り、世界で活躍する飴細工師。

1989年 千葉県生まれ。幼少より造形や彫刻に勤しみ、飴細工 アメシンとして全国各地にて製作実演や体験教室、オーダーメイド等を手掛けてきた。2013年、東京浅草に飴細工の工房店舗「浅草 飴細工アメシン」を設立。現在、9名の弟子を抱える。

 

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