ビジネスとアートで新しい社会の景色を創造する 【株式会社ストライプインターナショナル 代表 石川康晴】

PLART編集部 2017.11.15
SERIES

11月15日号

岡山にはアートに関わる人が多いように思います。実業家であり「大原美術館」を継承した大原総一郎さん。瀬戸内国際芸術祭の総合プロデューサーであるベネッセコーポレーションの福武總一郎さん。そして、この「PLART STORY」を立ち上げた柿内奈緒美を含め、今回ご登場いただく皆さま。

特集名は「ROOTS」

自分のルーツは生まれた時からスタートしています。

何に影響を受け育ったのか、そしてなぜアートと関わるようになったのか?

今月の特集記事があなたの”ROOTS”に思い巡らすヒントになったら嬉しいです。

 

2016年10月9日から11月27日、岡山県で「岡山芸術交流2016」が開催された。テーマは「開発」。

世界16カ国から31組のアーティストたちが集結し、アーティスティックディレクターとして、世界的に活躍するアーティスト、リアム・ギリック氏が指揮をとり、岡山の街がアートに包まれる期間だった。

© Okayama Art Summit 2016 / Photo: Yasushi Ichikawa

この岡山芸術交流2016の総合プロデユーサーを務めたのが、公益財団法人石川文化振興財団(以下、石川文化振興財団)の理事長兼、株式会社ストライプインターナショナル以下ストライプインターナショナル)代表取締役社長である石川康晴さん(いしかわやすはる 以下石川さん)だ。

女優・宮﨑あおいさんを起用したテレビCMでも話題に上がる「earth music&ecology」というレディスアパレルブランドがある。この不況なアパレル業界の中でも圧倒的な成長過程をもち活躍しているブランドで、ストライプインターナショナルの顔でもある。このアパレル躍進企業の代表である石川さんが、アートにコネクトしているという事実を、一般の人はどれくらい知っているのだろう。

今回は特集である「ROOTS」として、石川さんの産まれた岡山という地域に文化やアートという形で関わりながら、石川さんとアートが手を繋ぐきっかけやこれまでと未来を縁取る時間としてインタビューに臨んだ。

 

すぐそばにあった景色。そして、鑑賞者からコレクターへ

「アート作品の前に座り込んで1時間動かない人もいる。一方、3秒でさっさとどこかへ行ってしまう人もいる。僕はその1時間動かない人に目がいく。『何故1時間鑑賞することができるの?』と。僕もベンチに座って同じように1時間見ていると、いろんなことを考える。そのアートのわからなさ、答えの無さが、楽しいんですよね

石川さんにアートの魅力を尋ねると、気持ち良いくらい明確な答えが返ってきた。

石川さんとアートとの関わりを遡っていくと、正確には幼少期になる。

出身の岡山県には実業家・大原総一郎氏が継承した「大原美術館」がある。日本最初の西洋美術がメインの私立美術館で、石川さんは小学校の学校行事やワークショップを通じてよくこの美術館に足を運んでおり、本物に触れる機会があった。

また、アパレルの仕事を始めた23歳の起業時期、服の買い付けに飛んだフランスのパリやイギリスのロンドンに行くたびに、ポンピドゥー・センターやテート・モダンを訪れては、近代/現代美術の鑑賞者として通い続けていた。

「瀬戸内海にある犬島という島があります。僕にとっては友人や家族と釣りやBBQ、キャンプなどをして過ごしていた場所でした。それが美術館のオープンや瀬戸内国際芸術祭によって一気に素晴らしいアートの島に変わった。かつて精錬所の廃墟をお化け屋敷のように見て帰っていた景色が、あるものを活かし無いものを創り出すアートの島に変わっていた、そのビフォア、アフターは僕にとっては衝撃がありました

2000年代、瀬戸内の島には多くのアートシーンが生まれた。2005年には犬島・精錬所美術館がオープン。後に家プロジェクト(※注釈)、そして2010年には瀬戸内国際芸術祭がスタートした。自分が住み暮らしていた場所がアートという媒介によって大きく様変わりした様子をそばで見、体感していた石川さんにとって、「アート」いうものがより深く自分に刻まれることになっていったことは間違いない。

「20代の起業から20年を経て、40代に入り会社として成長してきた時に、ある作品に出会ったのが大きなきっかけになります。河原温という世界的に評価を得ている日本出身のアーティストの作品でした」

河原温(1933-2014・公式サイトなし)という愛知県出身の現代美術家の作品の中で「デイト・ペインティング」と呼ばれる作品の12枚セットを所蔵していたコレクターが売却しようとしている、という機会に遭遇した。

Date Paintings, ©On Kawara 写真提供:東京国立近代美術館 / photo: Keizo Kioku

世界的に活躍していた日本人アーティストの作品がもしかしたら日本から無くなってしまうかもしれないという現実に石川さんはとても揺さぶられ、結果、彼の作品を手にするという選択肢をとった。

鑑賞者からコレクターに変わるタイミングなんじゃないかと思えたんです

ここが石川さんにとってアートの世界へ深い一歩を踏み出したターニングポイントになっている。

※家プロジェクトは直島・本村地区において展開するアートプロジェクト。点在していた空き家などを改修し、人が住んでいた頃の時間と記憶を織り込みながら、空間そのものをアーティストが作品化

Tell my mother not to worry (iii), 2012, ©︎Ryan Gander

岡山という地域に自分ができること

ストライプインターナショナルの本社は岡山県岡山市にある。

岡山県に対して石川さんは様々な形でボトムアップを促していた。

2010年から続く「オカヤマアワード」。岡山の経済や文化の向上・発展を促し、地域を活性化することを目的として作られたアワードで、現在はこの実行委員長であり会長を勤めている。

また、岡山芸術交流の開催のきっかけの一つとなった2014年に開催された「Imagineering OKAYAMA ART PROJECT(イマジニアリング オカヤマアートプロジェクト)」は岡山市が主催となり、石川さんとワンダーウォール代表の片山正通さん、アドバイザリーとしてTARO NASU代表の那須太郎さんがプロジェクトメンバーに名を連ね、アートを通した地域の振興を手がけていた。

OKAYAMA AWARD 2017

「これからの日本人がグローバルで戦うときに、『教養』を磨くというのは大事な視点だと思っています。海外では教養が高められる教育がなされているのに、日本ではまだ少ないですよね。教養という言葉は幅が広くて、例えば、戦争のことも、宗教のことも、文化や芸術を学ぶことも含まれる。その中でもアートに対しての教養を身につける必要性があるなと思うのは、アートを鑑賞することによって、結果や答えのない創造力が鍛えられるんじゃないかと実感しているからです」

冒頭に挙げている岡山芸術交流2016も、オカヤマアワードも、2014年のImagineering OKAYAMA ART PROJECTも、石川文化振興財団が総合的にサポートしている。

石川さんはこのように、経済的な視点でも文化的な視点でも次世代を応援する仕組みを作っているのだ。

「自分が幼い時に見た近代美術の継承者である大原総一郎さんがいて、社会人になって体感した瀬戸内のアートで評価を得ている福武總一郎さんがいて、もし、文化・芸術のリレーがあるならば、そのバトンの第3走者として引き継がねばならないのではないか、そう思えました」

その言葉に沿うかのように、石川さんは受け取ったバトンを次世代へ繋げられるよう地域の振興、発展に精力的に動いている。

 

「社会の景色を変える」アーティストと経営者の共通性

石川さんが属す世界はビジネスとアートと双方があるが、その共通性を尋ねると1つのキーワードを提言してくれた。

Arts & Scienceですね。創造力と論理性。僕自身がアーティストと関わっていく中でよくわかったのは、アーティストって実は美しいものを作り出すだけじゃない。作品を作る過程にかなり論理的な思考があって、そこに彼らのクリエイティビティを加えていく。僕たち経営者もケーススタディや過去のデータを見ながら論理的に考える一方、常に新しいことを戦略に足していく必要があって、その2つは経営者にとっても大事なのです

石川さんにとってはアート作品を作るアーティストも、会社をおこし前に進む経営者も同じ歩みを持つ人だという感覚が伝わる。

「作品を通して誰もが体験したことのない新しい社会を作り出そうとしている、そんなアーティストに魅力を感じます。一方で自分もそうでありたいと思う。経営者として社会の景色を変えたいと思っています。ストライプインターナショナルでもシェアリングエコノミーという概念の中でファッションレンタルのサービスにチャレンジしています。世の中の人が『新品の洋服を着る』だけの社会から、借りた物と買った物が混在する、“着る”という行動を変える社会を作り出そうとしています」

新しい社会の景色。ストライプインターナショナルで見える景色とは別にアートとしての分野ではどんな景色を見据えているのだろう。

「10年後には石川現代美術館をオープンする予定です。その頃には、岡山芸術交流も3回は開催されているでしょう。街中に当たり前にアートが点在するようになっている風景が想像できます。

そしてアートを楽しみに来た人が、食の体験、宿泊の体験も楽しめるようにアーティストとアーキテクトが協働した一軒家タイプの宿泊施設も手がけようと計画中です。アートと組み合わせていくことで、交流人口が生まれ、経済的にも効果があらわれる。『岡山に定住や移住したい』と希望する人も増やしていきたいと考えてます」

岡山の景色は、石川さんが見たこれまでの景色とまた違う未来に繋がっていて、石川さんの言葉の端々からその入り口が見えるかのようだ。

今後、日本はもっと世界と密に繋がっていきます。その時、世界から『岡山、知っているよ』と言われるようなりたいですね。だけど、岡山だけでなく、周りの県・都市を巻き込んで、瀬戸内アートリージョン(※注釈)を創り出したいと思ってます」

情熱を感じる言葉のそれぞれは、石川さんの岡山というルーツへの熱意そのものに感じる。

アートによって、街の景色が変わる。ひいては社会の景色をも変えていく。

石川さんが見据える未来は、もうそこにあり、必要なパーツを懇々と積み上げている途中であることが理解できた。

その積み上げていく過程でさえも楽しいと物語る現状を切りとれる時間だった。石川さんの眼差しは、岡山から日本全体そして、世界を見ている。

それは、一つの使命であるかのように。

 

 

(※)現代アートや建築を中心とした香川県、岡山県、広島県、愛媛県など瀬戸内周辺の行政、財団、企業と連携を図り、県境を越え、瀬戸内を世界に発信できる一つの芸術地域とすること

kakite : Chihiro Unno /photo by Naoki Miyashita /Edit by Naomi Kakiuchi


石川康晴/Yasuharu Ishikawa

公益財団法人 石川文化振興財団 理事長

株式会社ストライプインターナショナル 代表取締役社長兼CEO

1970年12月15日岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院在学中。1995年にクロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を設立。1999年に主力ブランド「earth music&ecology」を立ち上げ、売上高はグループで1200億円を超える。グループ従業員は約5000 名、店舗は国内外合わせて約1400店舗まで拡大。宮﨑あおいを起用したテレビCMで注目を集める一方、女性支援制度の充実、地元岡山の地域貢献活動へも積極的に取り組む。

2010年より岡山の地域活性化と若手経営者の育成を目的に「オカヤマアワード」を創設。現代アートのコレクターでもあり、大型国際展覧会「岡山芸術交流2016」では総合プロデューサーを務めた。

2016年3月に、株式会社ストライプインターナショナルに社名を変更。2016年7月企業家大賞、2017年1月経済界大賞ライジング賞受賞。

 

取材フォトギャラリー

Verticale, 1977, ©Giorgio Griffa

“Scorning the abstract as an innate human device” Ramó Nash, 2011, ©︎Ryan Gander

Mordant wit, or Trading on being misanthropic, 2014, ©︎Ryan Gander

The Tragic Tale Of The Boy That Went To Sea, 2015, ©Jonathan Monk

theanyspacewhatever(detail), 2004, ©Liam Gillick



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